【完結】私に甘い眼鏡くん
体育館に着くと人混みに流されそうになる。
人、人、人ばかりの館内を彼はするすると歩いていくので、私は慌てて声をかけた。
「東雲くん、待って」
「悪い」
裾掴んでろ、と言われたのでおずおずと掴む。東雲くんの大きな背中を見つめていると、喧噪がやんだような感覚に襲われた。
クラスのみんなと合流する直前、なぜか離すのが惜しかった。
でも本人にもう大丈夫だろと言われたら仕方がない。
「彩!」「大丈夫?」「今東雲と来た?」「とりあえず春川呼んでくる」
「なんで」
呼ばなくていいんだけど……。
大丈夫とありがとうを連呼していると太一が駆け寄ってきた。
周りにいた友人達が一気に引いていく。
……え? なにこの感じ。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、寝たら良くなった。試合頑張れ」
「当たり前だろ!」
ちゃんと見とけよ、とコートに戻って行った。
ギャラリーのお友達がなにやらこそこそ言っていたけれど、まさか冷やかしではないと思いたい。太一の勘違いさせる演技が上手すぎるのだ。私は騙されないからね。
ふと東雲くんを探したが見当たらない。
さっきまで隣にいたのに、忽然と消えてしまった。
と思ったら太一と話してたが、はたから見てもわかるほどの険悪なムード。
……また、なにか余計なこと言ったんじゃ。
さっきようやく誤解を解けたのに、またあの状態に戻るのは嫌だ。
話し終えた瞬間を見計らい東雲くんに突撃した。
「東雲くん、今何言われたかわかんないけど太一の言うことなんて絶対気にしちゃいけないからね」
「……? ああ」
「信用してもダメだよ。あいつはああ見えて嘘つきだから」
「どうしてそんなに必死なんだ」
「また東雲くんと話せなくなったら嫌なんだよ。
太一のせいでああなったんだから、怪しい動向は見逃せない」
「……お前、本当に‥‥‥」
「なに?」
「なんでもない」
追及する間もなく試合が始まった。
「頑張れー!」
東雲くんの隣で大声を出す。彼はつまらなそうに試合を観ていた。
いや、観ているかも定かでない。
「すごいな、春川」
開始二分で五回目の得点に、黙り込んでいた東雲くんですら思わず口を開いた。
「基本的に運動神経いいらしいね」
知らないけど。
なっちゃんが聞いてもないのに教えてくれた。
「ああいうの、女子好きなんじゃないのか」
「運動神経がいいやつ? あー、みんな好きなんじゃない?」
「いや、お前」
「私? 別になんとも思わない……、いや、すごいとは思う」
「……へー」
女子の声援、体育館の床のなる音、ドリブル、シュート、ハイタッチ。
騒がしい音の渦から聞こえた、東雲くんにしては珍しく腑抜けた返事。
「それがなにか」
「特に」
「はあ……」
試合は私達のクラスの勝ちで、本戦に進むことになった。特進のくせにやるな、という周りのクラスからの称賛も耳に入ってくる。
「彩、次サッカーだよ、行こう」
「え、ちょっと」
なっちゃんに腕をグイグイ引っ張られる。
私は東雲くんの方をチラッと見た。
「俺は大丈夫だから」
「ごめん! あとでね」
もう少し東雲くんといたかったのにな、なんて気持ちは心の奥にしまった。
人、人、人ばかりの館内を彼はするすると歩いていくので、私は慌てて声をかけた。
「東雲くん、待って」
「悪い」
裾掴んでろ、と言われたのでおずおずと掴む。東雲くんの大きな背中を見つめていると、喧噪がやんだような感覚に襲われた。
クラスのみんなと合流する直前、なぜか離すのが惜しかった。
でも本人にもう大丈夫だろと言われたら仕方がない。
「彩!」「大丈夫?」「今東雲と来た?」「とりあえず春川呼んでくる」
「なんで」
呼ばなくていいんだけど……。
大丈夫とありがとうを連呼していると太一が駆け寄ってきた。
周りにいた友人達が一気に引いていく。
……え? なにこの感じ。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、寝たら良くなった。試合頑張れ」
「当たり前だろ!」
ちゃんと見とけよ、とコートに戻って行った。
ギャラリーのお友達がなにやらこそこそ言っていたけれど、まさか冷やかしではないと思いたい。太一の勘違いさせる演技が上手すぎるのだ。私は騙されないからね。
ふと東雲くんを探したが見当たらない。
さっきまで隣にいたのに、忽然と消えてしまった。
と思ったら太一と話してたが、はたから見てもわかるほどの険悪なムード。
……また、なにか余計なこと言ったんじゃ。
さっきようやく誤解を解けたのに、またあの状態に戻るのは嫌だ。
話し終えた瞬間を見計らい東雲くんに突撃した。
「東雲くん、今何言われたかわかんないけど太一の言うことなんて絶対気にしちゃいけないからね」
「……? ああ」
「信用してもダメだよ。あいつはああ見えて嘘つきだから」
「どうしてそんなに必死なんだ」
「また東雲くんと話せなくなったら嫌なんだよ。
太一のせいでああなったんだから、怪しい動向は見逃せない」
「……お前、本当に‥‥‥」
「なに?」
「なんでもない」
追及する間もなく試合が始まった。
「頑張れー!」
東雲くんの隣で大声を出す。彼はつまらなそうに試合を観ていた。
いや、観ているかも定かでない。
「すごいな、春川」
開始二分で五回目の得点に、黙り込んでいた東雲くんですら思わず口を開いた。
「基本的に運動神経いいらしいね」
知らないけど。
なっちゃんが聞いてもないのに教えてくれた。
「ああいうの、女子好きなんじゃないのか」
「運動神経がいいやつ? あー、みんな好きなんじゃない?」
「いや、お前」
「私? 別になんとも思わない……、いや、すごいとは思う」
「……へー」
女子の声援、体育館の床のなる音、ドリブル、シュート、ハイタッチ。
騒がしい音の渦から聞こえた、東雲くんにしては珍しく腑抜けた返事。
「それがなにか」
「特に」
「はあ……」
試合は私達のクラスの勝ちで、本戦に進むことになった。特進のくせにやるな、という周りのクラスからの称賛も耳に入ってくる。
「彩、次サッカーだよ、行こう」
「え、ちょっと」
なっちゃんに腕をグイグイ引っ張られる。
私は東雲くんの方をチラッと見た。
「俺は大丈夫だから」
「ごめん! あとでね」
もう少し東雲くんといたかったのにな、なんて気持ちは心の奥にしまった。