【完結】私に甘い眼鏡くん
「あ、太一」「お疲れ~」「春川くん、かっこよかったよー!」
「ありがとう」
偶然なんてことはないだろう、仕組まれていた太一とのバッティング。
「彩は?」
「……お疲れ」
「他に」
「すごかった」
「……まあいいや」
なにもよくない。
太一が変な態度を取るから、みんな勘違いしている。ほら、だってもうこの場には私達しかいないから。
不自然すぎるよみんな。
サッカーの試合が始まって、二人で声援を送る。そのまま無言で試合を観ていると、太一が口を開いた。
「今日、みんな変だよな。昨日の会話聞かれてたらしいぜ。最後だけ」
「え、すごく迷惑なんだけど!?」
そういうことだったのか。あの違和感の正体。
みんな面白がってたってことね‥‥‥。
「都合いいから俺はこのままでいいけどな。それとお前、東雲とバスケ観てたろ」
「それはまあ」
「誤解が解けたって聞いたけど」
「うん。誰かさんのせいで大変な目にあったよ」
「その誰かさんは今遺憾」
「なんで?」
「俺があのとき呼ばれなかったら、お前の面倒みたのに」
「……あのさ? いくら顔がいいからって、なんでも許されると思わないでね?」
「思ってねえよ」
なんだ、それ。
慣れないことを真顔の太一に言われたせいで戸惑った。
しかもその上少しだけ心臓が高鳴った気がする。いや、おそらく高鳴っていないけれど。気のせいに決まっているけれど。
これだから男慣れしてない私は困る。
この太一は設定。そういう設定だから。騙されてはいけない。
「もしかして、今ちょっと惚れた?」
心の中で言い訳を並べあたふたする私を面白そうに見つめてから、まだ私をおもちゃに遊ぼうとしてくる。
「惚れてないし」
「マジレスとか図星じゃん」
「うっさい!」
「おーおー怖いなー」
太一のバカ。本当に意味がわからない。
満足そうな顔を見るとより腹が立って、強く思った。
本当にこんなやつ、好きになれない!
クラスマッチ、私たちのクラスは男子バスケが準優勝を飾ったものの、サッカーは本戦初戦敗退、女子もバスケバレー共に本戦初戦敗退だった。
次はもっと上目指そうぜー! という浮ついた空気の中、私は東雲くんを探したが見当たらない。
「東雲ならさっき帰ってたぞ。拘束時間すぎたからって」
「言われなくてもそれぐらい推測できるし、勝手に考えてたこと当てないで」
「それは暴論じゃね」
お前いかなるときだって東雲のこと考えてそう、は言いすぎだと思う。
私も自分でもよくわからないほど、彼のことを考えてしまっているのは自覚しているけれど。
しかし、拘束時間すぎて一瞬で帰るって、彼の高校生活は本当に低燃費だ。
「じゃ、俺部活だから」
「こんな日にもあるんだ。頑張れ」
「ありがと。奈月、行くぞ」
「うん!」
手をひらひらさせるなっちゃんに振り返し、私は一人で帰路に就いた。