【完結】私に甘い眼鏡くん
「まあ、行かないよね」
男子と話すことにまだ若干の苦手意識があるのに一緒に遊ぶとか、そういうのはそれこそ太一や夕くんじゃないとできない。
なにより男子の部屋に行くなんて禁止されていることを平然とやるなんて、私には難しかった。
シャワーを浴び終えバスルームを出ると、もちろんなっちゃんはいなかった。
髪を乾かしてベッドに寝ころぶ。
暇だしれいちゃんの部屋にでも突撃しようかな、と考えていると、スマホになっちゃんからメッセージと写真が届いた。
『いと狭し』
二人部屋に太一を含む男子が六人と女子が三人。
れいちゃんは強引に連れてこられたらしい。
慈悲を込めお祈りをしたところで、私は本格的に暇になってしまった。
他の女子は他の女子で仲良くやっているだろうし、今別に話したい人もいない。
私は意外と淡白な性格なのではないか、と思い始めてきた。
しかし、厳密に言えば話したい人がいないわけではなかった。
でも朝の感じではとても私を取り合ってくれる気がしなくて、私はさらに落ち込んでしまう。
「夕くん‥‥‥」
ぼーっと天井を見ていたが、せっかく海沿いのホテルに来ているのだと思い窓を開けた。
昼間のヤシの木は暗闇の中だとちょっと不気味。
それでも心地よい穏やかな風に吹かれながら、微かな海の音を聞いていた。
完全に気を抜いていて、スマホの着信に驚く。
新着メッセージかと思いきや着信だった。
しかも、思いがけない人から。
「もしもし、夕くん?」
「突然悪い。今何してた」
「海見てるところだけど」
「服装は?」
「普通にパジャマだよ」
「差し支えなければ、部屋のドア開けてもいいか。今前にいる」
「え!?」
有名な怖い話のようなことを言われ慌てて扉に向かう。
鍵はなっちゃんが出ていってそのまま開いていたのだが、確認を入れてくれたらしい。
紳士だ。
ドアの向こうには本当に彼がいた。
人気のない廊下に胸をなでおろして、急いで部屋に入れる。
お風呂あがりなのか、いつもは色白い顔がほんの少しして上気していた。
シンプルな白いTシャツにダボッとしたスウェットパンツを履いている。
完全な部屋着だが、初めて見る彼の私服に気持ちの高まりを感じた。