【完結】私に甘い眼鏡くん
——コンコン
突然のノック音に私は飛び上がった。
「見回りか?」
「そんな時間!? とりあえずベッド入って!」
彼の潜りを見届けてはーいと返事をしながらドアを開ける。
案の定担任だった。
就寝時刻三十分前に見回りをすると言っていたが、もうこんな時間だったなんて。
「よし、ちゃんといるな。森中は?」
「なんか疲れちゃったらしくて、もう寝ました」
ほら、と夕くんが隠れているベッドの膨らみを見せる。
担任は男性だから、女子の部屋には入らない。
先生の紳士的振る舞いを利用し嘘をついてごめんなさい。
「頑張って準備してくれてたもんな、望月も森中も。明日もよろしく。おやすみ」
「おやすみなさい!」
ドアが閉まった瞬間に胸をなでおろした。夕くんもベッドから顔を出す。
「危なかったな」
「私たちって本当にいっつもこうだよね」
「記憶上書きな」
「うわっ!?」
腕を引かれ、気付いたらベッドの上で夕くんに組み敷かれていた。
彼は眼鏡を横のテーブルに置くと、優しくキスを落とした。
抵抗する間もなければ、理由もない。
受け入れる以外の選択肢は存在しなかった。
「お前の唇、柔らかいな」
「っ‥‥‥!」
そうつぶやいた彼のまなざしは心なしか熱っぽい。
私が悶絶する隙も与えず、また口がふさがれる。
お互いの唇が離れ夕くんの薄めの唇が少し湿っていることに気付き、私は思わず目を逸らした。
そんな私をみて彼は微笑み頭を撫でる。
「続きはまた。おやすみ」
「お、おやすみ!」
夕くんが廊下の様子を伺って部屋から出て行ったことを確認した私は、脱力した。
私、夕くんと付き合ってるんだ。
実感が沸かない。
けれど先ほどのキスを思い返すと言葉にならない悲鳴が漏れそうになる。
枕で声を抑えた。
「あんな夕くん、初めてだ」
彼の食い入るような視線を思い出して、また枕のお世話になる。
「ただいまー! 聞いて、わた‥‥‥彩!? ここで何があったの!?」
「えっ、と、特に!?」
上機嫌のなっちゃんの帰還に私は声を上げた。
その後とっさに嘘をついてしまった私を射抜くような視線を向けられる。
「何もないわけないでしょ!? あれ、誰の眼鏡!?」
ベッドの横に、彼の眼鏡が取り残されていた。