【短】ペシミスティックな欲望
降りしきる、無音の雨の中。
俺は静かにその雨へ身を任せている、一人の女の子を目に止めた。
何故かそれはスローモーションの映画のワンシーンのようで…。
気付いたら、彼女の頭上に自分のさしていた傘を、そっと差し出していた。
「…風邪、ひくよ?」
なんて声を掛ければいいかと思ったけれど、口から出てきた言葉はとてもシンプルなもので、ナンパか呼び込みに思われたらどうしようか…という考えは後からやってくる。
それでも、彼女はそんな俺の思惑とは違って、無駄に高い俺の目線へと瞳を合わせるとふっと微笑んだ。
「…ありがとう…」
りん、と耳に響く透明な声。
スッと切れたアーモンド型の瞳は、さながら仔猫のようだ。
不意に下を向いた時に見えた震える長いまつ毛。
サラリとした長いストレートヘア。
なんとなく、道を彷徨い続けた仔猫の姿に、彼女の姿が重なって、また気付いたら彼女の頭をぽん、と撫でていた。
「……ありがとう…」
そう、彼女は囁くように呟くと、静かに微笑んだ。
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