【短】ペシミスティックな欲望
熱が引くまでの、数分間。
俺は呼吸を整えるために、彼女の了承を得てから、煙草に火を付けた。

手に馴染むジッポライターは、さっき感じた彼女の体温を思い出させるほど……凍て付いていた。


けして心の奥底までは交えられない、関係。
それに振り回さられるほど、バカでも子供でもない。


彼女が俺に欲したものは、悲しくも儚い想い。
俺が彼女に欲したものは、痛みを伴った願い。


2つの悲観的な欲望は、冷たい炎に包まれて、少しずつ真っ白な灰になっていたのもしれない。



「矢代さん…私…」

「いいよ…気にしないで。そんな顔されたら、無茶苦茶にしたくなる」


俺は、泣きそうな彼女をまた抱き締めて、肩を撫でた。
その手の平に…体温と同じ冷たい雫が落ちる。

俺はそれがやるせなくて、ただただ薄い体を抱きしめることしか出来なかった。


世界中のどんな幸せを集めても、俺たちの欲する幸せには満たないはずなのに…。


そんな願いは叶わない。
きっと二人は、あの日。


雨に濡れたままで、別れて…再会をしなかった方が良かったんだろう。

つん、と鼻の奥が痛くなった。
けれど、俺がここで泣くのはズルいと思った。

だから……。
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