【短】ペシミスティックな欲望
その日を境に、何もない部屋から無機質なオフィスまでの間に、何か光のようなものが生まれた。



それが、なんなのか…初めは分からなかったけれど。


彼女が働いているという花屋を見かける度に、なんとなく胸が震えた。


「それ、恋なんじゃねーの?」


かちんっ


と、ライターの音と共に火を煙草に移して、俺の上司で幼馴染の遼太(はるた)が言う。


俺は、遼太よりも先に火を付けていた煙草から指を離しそうになる。


「……は?」

「何度も言わせんなよ、恥ずいな。だから、お前はその子のことが好きなんだって」

「……好き…?…ってまじか。どう見たって年の差離れ過ぎだろ……」


そう言って、後ろに流してセットした髪をくしゃくしゃと乱すと、遼太がくくくっと笑う。



「なんだよ?」

「いいねぇ…青春。あー…俺も奥さん欲しぃー」

「…じゃあ、何時までも遊んでねーで相手見つけろ」

「うるせーよ」


そんな小競り合いの後、オレは何時ものように何冊かの書類とノートパソコンをカバンに仕舞い込んで、家路につこうとオフィスの外に出た。



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