【短】ペシミスティックな欲望
「格好悪いなー…ごめん、そんなとこ見せて」


かしかしと髪を掻いて謝ると、また無言でふるふると首を振る彼女。


「痛そうだなって思いました」

「ん、結構ほっぺた腫れたよ〜」


また苦笑する、俺。
そんな彼女は不意に立ち止まった。


「花生さん…?」

「矢代さんの、心が。凄い傷付いてるって…そう、思ったんです」


え…?そう返そうとして、右腕が熱くなった。
それは彼女が俺に触れていたから。


「っ…」

「きっと、私も同じだから…分かる…」


そう言われて、急にたがが外れた気がした。

俺は、彼女を傷付けないように路地裏に引き込んで、その薄く色付いた口唇に自分の口唇を押し付けた。


「…っ。ごめん」

「…大丈夫…」


今、この世界に二人だけしかいないんじゃないかという、錯覚。


そして消えゆく喧騒。


俺は二度目の接吻けを彼女に落とした。


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