貴方を好きな私は嫌い
次の日。
朝、教室に向かってると、
竜也が私のクラスを覗いてるのが見えた。
「 竜也ー? 」
後ろから話しかけると、
「 あ、真凜ちゃんごめん!
昨日教科書返すの忘れちゃったよね! 」
そう言って教科書を渡した。
「 そうだよね!昨日、私も忘れてた! 」
「 ごめんごめん。今日も、勉強会する? 」
「 え??…………いいの?? 」
欲張りになる、自分が卑怯。
「 全然!自分、真凜ちゃんと
居ると楽しいからやろうよ! 」
その言葉はずるいじゃん。
もっと、期待しちゃうじゃん……
「 竜也? 」
声のした方を振り向けば、不安そうに
こっちを伺ってる河西さんが居た。
「 なにしてるの? 」
一瞬私を睨んでから、竜也に話しかける。
「 教科書貸してもらって、返したところ 」
「 どうしてこの子に借りたの? 」
「 どうしてって… 」
「 私に借りればいい話じゃないの? 」
「 まあ、そうなんだけど…… 」
「 は?意味わかんない!
そんなの理由になってないよ! 」
ああ、怒っちゃった……
「 ごめん、悪かったって 」
「 ねえ、あなたもなんか言ったら? 」
急に矛先が私に変わる。
「 いや、真凜ちゃんは関係ないから! 」
「 なにその呼び方。もうそんな仲なの? 」
「 いやあ…… 」
「 もういいよ、竜也なんて知らない!! 」
竜也を突き飛ばしてから、
河西さんは行ってしまった。
「 大丈夫??? 」
突き飛ばされてる竜也に寄り添う。
「 ふふっ、ダサいとこ見られたね 」
「 勉強会、中止にしよっか…? 」
「 いや、やろ。また後で 」
立ち上がり、自分の教室に戻って行った。
自分の為だけに竜也を欲した結果、
竜也を傷つけてしまった。
私、竜也から離れた方がいいのかな…?
放課後。
竜也が私の教室に入ってきた。
「 さ、やろっか! 」
「 う、うん! 」
「 さっきのこと、真凜ちゃん
気にしなくていいからね。 」
「 え? 」
「 真凜ちゃんのせいじゃないから! 」
「 …………… 」
「 あいつ、わがままなんだよ。
自分は他の人と仲良くしてるくせに…… 」
「 それでも、河西さんが好きなの? 」
「 んー、どうだろーねー。わかんない 」
「 竜也のことだけを見てくれてる人、
他にもたくさんいるんじゃない? 」
「 そんな奴いるかー? 」
「 私………とか………」
「 真凜ちゃん……? 」
「 ふふっ、私ダサいんだ。
河西さんっていう、かわいくて
素敵な彼女がいる竜也を好きになった。
竜也に優しくされて、距離が縮まって
余計に好きになったの。
ねえ、責任取ってよ……! 」
「 ……………… 」
「 キス………して 」
「 え…? 」
「 そしたら、諦められるから 」
「 それは、できない……」
「 誰もいないし、見てないよ。
河西さんにバレなきゃいいじゃん 」
自分でも知らなかった、
私の中の黒い部分が大きくなっていく。
「 ごめん……… 」
「 ……… 」
「 愛香にバレなくてもできない。
もし愛香が自俺以外の人と
キスしてたとしたら、嫌だから…… 」
どこまでも誠実な人。
そんなところも、素敵だね。
さっきはわかんないなんて言ってたけど、
やっぱり竜也は河西さんが好きなんだね。
「 こんなとこ河西さんに
見られたら、また竜也怒られちゃうよ 」
「 うん…… 」
「 今日、帰った方がいいんじゃない? 」
「 でも…… 」
ピロリン
竜也の携帯が鳴る。
「 もしもし、愛香? 」
「 あ、竜也?さっきはごめんね。 」
教室が静まりかえっていて
河西さんとの電話の内容が嫌でも
私の耳に入ってくる。
「 いや、こっちこそごめん 」
「 私、やっぱり竜也が好き。
いつもの公園で待ってるから、来て 」
「 ……… 」
「 じゃあ、待ってるから。 」
プープープー
「 いつも突然なんだよなあ… 」
「 行ってあげて! 」
「 でも…… 」
「彼女さん、優先してあげて! 」
「 自分から誘っといたのに、ごめん… 」
「 全然!大丈夫! 」
「 ごめん、行くわ 」
教室に1人になった私。
なにやってんだろ、馬鹿みたい。
必然的に、フラれた。
河西さんよりも私の方を選ぶなんて、
そんなのありえないってわかってたのに。
私の初恋は、呆気なく終わった。
もう、竜也を諦めなきゃいけない。
どうでもよくなる。
誰でもいいから、竜也の代わりになって。
隣の教室を覗く。
1人、席に座って勉強してる男子が居た。
教室に入って行き、後ろから抱きしめる。
名前も知らない、話したこともない。
でも、いいの。
誰でもいいの。
「 抱いて 」
一言それだけ言った。
会話は、それっきり。
自分の初めてを、知らない人に捧げた。
それから、竜也を思い出す度に、
他の人と体を重ね続けた。
竜也を忘れられるくらい、
好きになれる人を探した。
行為が終われば、余計に寂しくなるだけ。
その寂しさを埋めるために、
また重ね合うだけ。
どんどん黒くなる。
最初はそんな自分が嫌いだった。
でも、今ではどうでもよくなった。