痛み無しには息ていけない
「マコ、来週やる筈だったサッカーの試合、チケット買ってたのに、延期になっちゃって?」

「そーなんだよ!チケット、さっき買ったばっかだったのに…。しかも自分、その試合の為に有給まで取ってたんだよ!」


休憩時間が終わり、再び段ボール箱を組み立てていると、沙織が話し掛けてきた。
自分が喫煙室で大騒ぎした所為か、一緒に居なかった沙織までが、何故か自分がサッカーの試合を観損ねた事を知っていた。


「そっかー。残念だったね…」

「本当だよ!チケットは払い戻さなきゃいけないし、この試合がまた組まれた日程で、自分が観に行けるとも限らないんだから」


段ボール箱を組み立てる手は止めずに、けれど自分はサッカーに興味無い沙織相手に、いかにショックだったかを捲したてる。
熱弁してたら少し暑くなった気がして、側に置いてあったスポーツドリンクを飲む。

鼻から何か垂れてきた気がした。
花粉症の季節だし、鼻水かと思って、とりあえずスルーする。
沙織がギョッとした顔で、こっちを見てきた。


「…マコ、鼻血出てるよ」

「はい?」

「とりあえず安静!マコは鼻つまんで!渡辺さん呼んでくる!」


沙織は自分に矢継ぎ早に指示しつつ、組み立てかけていた段ボール箱を組み立て、慌てて走って行った。
暫くしてから、渡辺さんと一緒に、ボックスティッシュを持った沙織が戻ってくる。
自分は沙織からボックスティッシュを受け取り、鼻にティッシュをあてがった。


「おぅおぅ、どうした小川」

「……はにゃでぃ、でまふぃた」

「……鼻血出ました、か」


詰まってる鼻を押さえてるから、上手く喋れない。口を動かすとティッシュにくっつきそうになる。
渡辺さんが何処から取り出したのか、小さな保冷剤を渡してきた。


「コレ、首筋の後ろ側か、鼻の上らへんにでも当てとけ。止まるまで無理に動くんじゃねーぞ」

「…ひゃい」

「ったく、さっきから興奮して叫んでるからだ。高橋、後は頼んだぞ」

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