痛み無しには息ていけない
「オマエ、あの後また鼻血出したの!?馬鹿じゃねぇの!?」


再び休憩時間になり、渡辺さんに鼻血が再び出た事を報告したら、開口一番がコレである。
沙織は渡辺さんから保冷剤を複数預かっていたのか、まとめて返している。
自分も使った保冷剤を2つ、渡辺さんに手渡した。


「…いや、ホントすんません」

「…ったく、ただでさえ人少ねぇのに、高橋に迷惑かけまくりやがって」

「…そういや、何で今日、人少ないんですか?」

「笑一が有給取ったからだよ!だから、そっちに回せる人が減ったんだ。しかもアイツ、昨日になって急に申請しやがって。派遣さんの調整が間に合わないだろーが」


沙織の質問に、少し愚痴っぽく答える渡辺さん。
そうか…。吉田さんが居ないのは、有給取ってたからか…。
どうせ、あの人のコトだ。消化してないのに気付いて、慌てて有給取ったんだろう。
素敵な休みを過ごされてますように。
あ、有給と言えば。


「渡辺さん。自分、来週土曜の有給、無しで良いっす。サッカーの試合無くなっちゃったから」

「お、分かった。でも程々に休めよ。しかもオマエ、もう一つ仕事してるんだし」

「ありがとうございます。でも、大した事無いっすよ」


そう、自分はもう一つ仕事している。
スーパーとかで“いらっしゃいませー、新商品のヨーグルトは如何ですかー?”とか言ってる、試食販売のスタッフ。あれの派遣だ。
だから黒髪にしてる。自分の所属してる派遣会社は黒髪が必須になっている。別に黒スプレーでも良いんだけど、アレ髪傷むしね…。

渡辺さんは口が悪くキツい事も言うし、普通にアル中だと思うけど、何だかんだ真面目で優しいのだ。
今日も気遣ってくれてるし、恐らく自分を心配して、沙織に多めに保冷剤を預けたのだろう。
だから自分も悪口は言うし、おちょくったりするけど、それでも渡辺さんを普通に尊敬してるし、人としては普通に好きなんだ。
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