痛み無しには息ていけない

~壱~

目が覚めると何となく額が痛かった。
とりあえず目覚まし時計代わりの古いガラケーを見て、今の時間を確認する。


「7時20分か…」


思わず呟いて、やおら起き出す。
今日は仕事は13時半からだけど、まぁ早いに越した事は無い。

起き上がってから枕を見ると、小さな血痕がチョンチョンとついている。


「げっ……」


事が事だけに一瞬怯んだけど、もう5年以上続いてる症状なので、すぐに平常心に戻る。
冷静になって両腕を調べてみるが、5年以上前の右腕の大きな裂傷の痕と、元からあった無数の小さな引っ掻き傷と痣しかなかった。

――――いや、普通に考えたら。
大きな裂傷や、無数の引っ掻き傷や青痣が両腕に広がってるだけでも、十分に異常性はあるとは思うけど。


とりあえず朝食を食べようと思って、寝起きの頭をフル回転させ、昨晩のうちに考えたメニューを思い出しつつ、台所に向かう。
何となく額が痛んだ。



自分の名前は、小川麻琴(おがわ まこと)。
神奈川県出身、都内在住の27歳。一応、性別は女。
仕事は煙草の仕分けのパートと、派遣でスーパーの試食販売のスタッフ。
パート先である仕分けセンターからチャリで20分くらいの所で独り暮らししている。
今日はこれから、煙草の仕分けの方の仕事。


今日の朝食は中華麺。
茹でた中華麺に、バター一欠片と卵、茶漬けの素を和えて食べる。
場合によっては、醤油を適量加えても美味いんだけど……。


「切らしてる……」


どうやら、醤油は切らしてしまってたらしい。
こんな時に限って。ふざけんな。

おかず代わりに作り置きしている、胡瓜と砂肝の胡麻油漬けという、酒のアテみたいなものを冷蔵庫から取り出す。
あとは、“食事の最初に食べると血糖値が上がりにくい”らしい、スーパーで3パック1セットで買ったもずくの黒酢和え。

いつの間にか中華麺が茹で上がったので、湯切りして卵とバターと茶漬けの素を和える。


「いただきます」
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