痛み無しには息ていけない
「あ、美味しい。良いね、今晩はコレにしよっか!」

「うん!」

「お気に召して頂けて嬉しいです。ありがとうございます!」


買っていってくれた親子に御礼を言い、最後に男の子に「バイバ~イ」と手を振る。
やった!とりあえず一つ売れた。時給制だから売上は特に給料に響かないが、それでもやはり嬉しい。


「お疲れ様です。どうですか?売れそう?」

「あ、大丈夫です!さっそく親子連れが一つ買っていってくれました!」


精肉の担当さんが様子を見に来た。
新商品だからか、売上が気になるらしい。
しかも、ちょっと高級ラインだしなー。格安を求めてる方だと、どうしても手に取りにくい…。


「もう一つ売れたんですか!?まだ開店1時間とかなのに…、やりますね。引き続き御願いします」

「はい!」


左腕の袖を少し捲って腕時計を確認すると、確かにまだ11時過ぎである。
これから暫く暇だぞ…。経験上、昼食時にスーパーに来るお客さんは少ない。
しかも昼食時に来るお客さんは、余計な物を買っていかないどころか、試食していく人も少ない。
思わず欠伸が出そうになって、いつものように口元を手で隠そうとし、マスクしている事を思い出して手を下ろす。
…あぁ、慣れない。というか、普通に息苦しいんだけど。


「美味しいソーセージはいかがですか~?新商品でーす!」


しかし、そんな事も言っていられないので、とりあえずは声を張って呼び込みする。
マスクの所為で声が通らない…!
そして呼び込みしたにも関わらず、誰も試食販売に立ち寄る事は無く、むしろ店員さん以外の人の気配すら感じなかった。
……この店、今お客さん居るの?


「お疲れ様でーす」

「お疲れ様です~……」


精肉の担当さんではない声だが、聞き覚えある声に挨拶され、条件反射で返事する。
振り向くと、今朝消耗品を買った時のレジ担当の人が居た。


「試食の派遣さん、ソーセージだったのね」
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