痛み無しには息ていけない
各種SNSを高速でチェックして、某新聞社のオンラインページを確認する。
東京版の記事には、どうしても疫病に関するニュースや悪いニュースが多く、読んでいるこっちの気分まで滅入ってきてしまう。

“飲食店にナイフを持った男が侵入し、従業員を傷付けた後に逃亡。警察は行方を追っている。”
……うわ、怖えぇなー。何なんすか、強盗?
皆、疫病の所為で仕事減って、収入減ってるもんなー。
けどだからって、他人からお金を強奪するのは違うだろ。

“医療従事者の親を持つ子どもが、散歩に出た近所の公園で仲間外れに遭う。”
……何なの、子どもは生まれる時に親を選べないし、全く悪くないぞ。
その親御さんだって危険承知で仕事行って、こんな御時世でも何とか生活出来るように頑張ってくれてるのに。
文句言う相手が違うだろ。バッシングするくらいなら、どんな大病に罹っても病院の御世話になるな。

……さて、ご飯が炊きあがるまでの間に、先に風呂に入っちゃうか。
そうすれば、後でノンビリ出来る。
急にそう思い立って、飲みかけのアイスコーヒーを飲み干し、風呂場に向かって浴槽に湯を溜める。
蛇口を捻って浴槽をシャワーで軽く洗い流した後、栓をしてお湯が溜まり始めたのを確認してから、何とも無しに洗面台の鏡を覗いた。
……両頬に無数の引っ掻き傷の筋がある。遠目から見たそれは、まるで目から赤い涙が流れたようだった。
うええぇぇ…。喋ると両頬の皮膚が引き攣っていたのは、この所為か。暫く苦労しそうだ。

入浴後の着替えを準備する為に、一度風呂場を出る。
ベランダで干しっ放しになってるタンクトップを取り込もうとして、通りがかりにベッドを見たら、枕の両側に複数の小さな血痕が散っていた。
…何なの。引っ掻き傷が出来る度に、寝返りでもうってたの?洗濯、面倒くさー。
けどこのシーツも枕カバーも血痕が散りまくってるから、そろそろ洗濯時かもね。
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