痛み無しには息ていけない

~弐~

休憩所の適当な椅子に座り、沙織が溜め息をついている。
よほど大きな溜め息だったのか、マスク越しでも十分聞き取れた。


「沙織どうした?溜め息なんかついちゃって」

「…あれ」


沙織はこっちをチラリと見てから、テレビの方を指差した。
自分も沙織の横の椅子に座る。
テレビの情報バラエティでは、大型連休の東京近県の活動自粛について、MCである人気アナウンサーと知識人、タレントが論じまくっていた。
どうやら今年のGWは、この疫病による活動自粛は免れないらしい。…金が回らなさそうだな。


「……GWなんて、まだまだ先じゃね?」

「4月下旬から数えて、5月頭に有給とかってするなら、もう半月程度だよ。4月は他に国民の祝日が無いから、もう本当にすぐだよ」


沙織が心底嫌そうに答える。
自分はスマホのカレンダーアプリを開いて、4月の祝日を確認した。…確かにGWの期間まで、旗日は無い。


「何話してるんですか?」

「…あれです」


吉田さんが話し掛けてきて、沙織が再びテレビを指差す。
情報バラエティではまだ、東京近県の活動自粛について、出演者が意見の遣り取りをしていた。
吉田さんは自分の隣、沙織の反対側の椅子に座る。
…少しムズムズした。


「あぁ、GWの活動自粛の…。困るんですよね、俺は毎年、GWに実家にちょっと顔出してるから」

「吉田さんの御実家って、何処ですか?」

「あ、北海道です。…でもこんなんじゃ、とてもじゃないけど帰れないですよね」


前後の土日や有給もくっつけて、1週間まとめて休んでると話す吉田さん。
…てか沙織、吉田さんの地元、知らなかったのか。この人、上京するまで見た事が無かったとかで、究極のゴキブリ嫌いなのに。


「…やっぱ皆、そんな感じですよね…。私、遠距離の彼氏がいるんですけど、本当はこのGWは久々に逢いたかったんですよね……」

「遠距離って、何処ですか?」

「名古屋です」
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