痛み無しには息ていけない
「叩く相手、間違えてんじゃねーよ。悪いのは訳分かんない疫病だろーが」


思わず言葉が零れ落ちた。
沙織と吉田さんが自分を見る。


「自分だってYell亡くなったの、ショックだったっすよ。でも誰の所為でもないじゃん。Yellだって治療の為に瀉血して、副作用の一つとして、出血多量で亡くなって。確かに命を落とす可能性は分かってたかもしんないけど、白血病だったんだから」


愚痴を沙織と吉田さんにまくしたてる。
喋る度に、頬の引っ掻き傷が引き攣り、思わず顔をしかめる。でも痛みがあっても、止まれない。
沙織と吉田さんは、黙って聞いてくれている。


「過去は変えらんないから、何をどうしても、Yellは絶対に戻ってこないし。皆同じような事を感じてると思うから、やりきれなさが尋常じゃなくて、それに耐えきれないからこうして愚痴とか嫌がらせみたいな事件が出てきてんだろ。それも分かんだよ。けど言っても何もならねぇだろ。嫌な思いする人が増えるだけだろ」


頬の無数の傷が痛い。思わず手で押さえる。
一気にまくし立てたから疲れる。深呼吸する。沙織が心配そうに自分の顔を覗き込んできた。
けど止まれない。頬を押さえたまま、再び口を開く。


「駄目だ、おかしいっすよ。皆分かってんだろうに。それでもこんな状態になってるとか、気持ち悪い」


喋る度に、頬の引っ掻き傷が引き攣り、顔をしかめる。
感情が昂りすぎたのか、涙が一筋零れた。傷に沁みる、痛い。
沙織がティッシュを差し出してくれた。


「マコ、大丈夫?これ使って」

「…ありがと」

「……ずっと気になってたんですが、その頬の傷はどうしたんですか?猫にでも引っ掻かれたんですか?」


指で頬に小さなバツ印を、縦に連ねて描いていく吉田さん。
――この人は意外と、チョコチョコと身振り手振りをする事が多いのを思い出した。遠くから見ると、ちょっと見辛い事もある。
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