痛み無しには息ていけない

~壱~

今日は暑い、最高気温が25℃を越えたらしい。
今年になって初めて、半袖の服を着た。
古い裂傷の痕や、無数の小さな引っ掻き傷が、両腕に広がっているのが剥き出しになっている。
それに加えて、涙が一筋零れたように、引っ掻き傷が頬に縦に伸びていた。


「今日はちょっと、一杯呑んでくか」

「賛成です!」

「…自分も一緒して良いっすか?」

「勿論」


渡辺さんの提案で、自分と渡辺さん、それに吉田さんは勤務後にコンビニで酒を買い、公園でノンビリと呑んでいた。
自分が喋った時に頬の引っ掻き傷の痛みで顔が少し引き攣ったのを、吉田さんが見ていた気がした。


「オマエ、その腕、どうしたの?傷だらけじゃねーか」


ちょうど缶チューハイを持ち上げたタイミングで、渡辺さんに聞かれる。
自分は両腕の内側を上に向け、ちょっと見やすいようにする。


「……コレっすか?」

「他に何があんだよ?」


……仕方ない。聞かれたし話すか。
酒が不味くなるような話なんだけどな。


「……自分、大学生の時に友達と一緒に交通事故に遭ってるんすよ。一緒に居た友達は、出血多量で亡くなって…。一番デカいのは、その時の傷痕っす。」

「……はぁ?何で言わないんだよ!そういう事は早く言えよ」


渡辺さんからそんな気遣ってくれるような言葉が出た事が一番驚きだ。
この人、普段は絶対におちょくってくるのに。
思わず言い返す。


「明るい気分になる話じゃないじゃないすか!どうせ楽しく酒呑めない~って言うんでしょ。だって怪我して血ぃ出てるし、人が死んでる話なんすよ!」

「確かにそうだけど…。けどソレじゃ、黙ってるのもしんどいだろ。……笑一はこの話、知ってたか?」

「あ、はい。知ってました」


…え?この話、吉田さんに話してたっけ?
いやむしろ、今のこの職場に来てから、話した事あったっけ?
思わず缶チューハイを喉を鳴らして呑む吉田さんを凝視する。
< 43 / 56 >

この作品をシェア

pagetop