痛み無しには息ていけない
IX

~零~

自分は騒々しくて白っぽい、ベンチが幾つも並んだ所に居た。
気づくと頭にも右腕にも、白い包帯がグルグルに巻かれている。座ってるベンチの側には、松葉杖が1本立てかけてあった。どうやら捻挫もしていたらしい。
ようやく自分が、かつて入院してた病院の待合室で、テレビを観ていると分かった。

…これ、アレだ。あの事故に遭った後の自分だ。
今見ているコレはたぶん夢で、あの時の記憶をなぞっている。
そしてこの夢、確か前にもみている。
もしもこれが記憶通りなら、確かこの後は……?
観ていたテレビはニュースが点いていて、自分と花奏が巻き込まれた交通事故について報道している。
あの事故の犯人は、花奏の元カレ。事故が起きる一週間前に別れていた。
犯行動機は――――。


「“一週間前に彼女と別れた。何もかもがどうでも良くなって、腹癒せに事故を起こした。誰でも良かった”と話しているそうです」


“誰でも良かった”なんて、大嘘じゃねーか。現に、テメェの元カノだった花奏だけが亡くなったんだぞ。
それ以外は誰一人亡くならず、直接巻き込まれた自分も大怪我ってレベルで済んでる。


「!?」


急に来た。何か吐きそうだ、気持ち悪い。
そのまま意識が遠くなり、ドンという鈍い音と、ガタンという大きな音が聞こえた。
“ガタン”は松葉杖が倒れた音だとしても、“ドン”は…?


「小川さん?小川さん!?」

「大丈夫よ、今先生呼んだからね」


遠い意識の中で、バタバタと走る音が複数聞こえる。
そこでようやく、さっきの“ドン”が、自分の倒れる音だったと気付く。
……うわー。本当にこの夢、あの時の記憶と同じじゃねーか。
そこまで思って、意識が完全に途切れた。
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