痛み無しには息ていけない

~壱~

梅雨入りした。今も傘がいらない程度の小雨が降っている。
ジメジメしていた。
今日は出勤の時に雷雨が降っていたので久しぶりに電車で来たら、まさかのタイミングで残業を喰らって、終電を逃していた。
かつて同じ悪夢をみた時と同じように出来た右肩の痣が痛かった。

気象庁の関東での梅雨入りの発表と同時に、空気汚染が疫病は弱体化するとされ、東京都は自粛を解いた。
実際、発症者は日に日に減ってきている。
東京近県でのスポーツやイベントも、徐々に再開してきていた。


「小川さん。残業お疲れ様です」


声に振り返ると、吉田さんと渡辺さんが居た。


「この後、ちょっと呑みません?」

「良いっすよー。もう電車無いし、どっちにせよ歩くしかないし」

「…オマエ、チャリは?」


少し驚いてそうな渡辺さんに、ちょっと疲れた感じで返す。


「今日は電車で来たんすよ。来る時に雷まで鳴ってたし」

「あー…。どんまい」


仕分けセンターを出た自分達は、そのまま近くのコンビニに立ち寄り、適当に酒を選ぶ。


「したら、お疲れ様でーす」

「お疲れ様っすー」


吉田さんが方言混じりで声をかけてくれ、そのまま乾杯する。
仕事後の、ましてや残業後の酒は本当に美味い。
そのまま、どうでも良さそうな事をダラダラと話しながら歩く。
御時世柄とも言うべきか、必然的に疫病による自粛が解除された話になった。


「そういや小川、サッカーはどうなんの?」

「先に観客動員数が比較的少ない、J2とJ3から再開になりますね。それが来週末からです。J1は再来週からになります」


渡辺さんからの質問に答えていて、自分は大事な事を思い出す。


「そうだ、渡辺さん。アレっす、…来週の土曜、有給下さい。もう相模原vs秋田の試合、チケット押さえちゃったっす」

「大丈夫だと思うけど…。一応、オマエの方から正式に申請しとけ」

「了解っす」
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