痛み無しには息ていけない
吉田さん、何言っちゃってるの!?
驚いて言葉が出ない。何て言えば良いのかが分からない。
先に口を開いたのは渡辺さんだった。


「オマエ何言っちゃってるの?大丈夫か!?」

「え?だって、そう思いません?何だろ、どう表現すれば良いか、分かんないんですけど…」

「いやでも、相手はこれっぽっちも女子力の欠片も無い、この小川だぞ!?」

「…さすがにソレは酷くないっすか!?」


自分が言葉を失っている間に渡辺さんが言いたい放題言ってくれたので、さすがに突っ込む。
通りがかりの自販機の横のゴミ箱めがけて、渡辺さんが呑み切った空き缶を投げ入れる。
空き缶はゴミ箱の蓋にぶつかり、跳ね返って転がっていった。


「くそっ」

「知らねーよ」


そのまま放置する訳にもいかない空き缶を追いかけていく渡辺さんを横目に、自分は立ち止まって普通にゴミ箱に空き缶を入れる。
右肩の痣が痛んだけど、そんなに気にならなかった。
吉田さんもそのまま空き缶を捨て、渡辺さんが戻ってくるのを待つ。
吉田さんに言いたい事がある。


「…まぁ、ありがとうございます」


吉田さんはこっちを見て微笑んでくれた。
口が“いえいえ”と動くが、声は聞こえない。
ゴミ箱に空き缶を無事に捨て終わった渡辺さんが戻ってきた。
再び歩き出す。

…あぁ、何か今、最高に楽しいわ。
好きだ。
……あ、大事すぎる事を思い出した。


「……あぁ、そうだ。吉田さん、お誕生日おめでとうございます。てっぺん越えて、確か今日が誕生日でしたよね」


吉田さんが目を丸くし、驚いたのが分かった。
満面の笑みになる。


「ありがとうございます。よく覚えてましたね」
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