痛み無しには息ていけない

~参~

休憩所にある喫煙室の窓越しに、自分と渡辺さんはテレビを観ていた。
電子煙草派で周りに迷惑のかからない自分は、本来なら喫煙室で吸う必要は無いのだが…、まぁ何となく。
しかもこの4月から法律が変わって、電子煙草でも喫煙室じゃないと吸えなくなるらしい。
まぁ元からこうして喫煙室を使ってるし、詳しい話は知らんけど。

テレビは、15時のニュースが流れていた。
アナウンサーが真面目な顔で、ニュースを読んでいる。
次のアナウンサーの言葉に、自分は思わず持っていた電子煙草を落とした。


「次のニュースです。Jリーグは、東京で流行る原因不明の病が沈静化しない為、東京及びその周辺地域にあるチームの試合の開催を見送ると発表しました」

「はああぁぁぁぁ!?」

「どうした小川、大丈夫か」


渡辺さんが、自分が落とした電子煙草を拾って、渡してくれる。
「ありがとうございます」と御礼を言ってから、自分はニュースを食い入るように見つめた。


「対象となる試合は、関東甲信越にホームタウンがあるクラブとの試合、対象期間は3月いっぱいです。Jリーグによると…………」

「何だよ、ふざけんな!」


思わず叫んだ所為で、喫煙室のガラス窓がビイィィン…と震える。
休憩所でノンビリする人達が、こっちを振り返るのが分かった。


「落ち着け小川、どうした?」

「今日、此処に来る途中で買ったチケットの試合、延期になっちゃったんすよ!来週末の川崎vs名古屋の試合、せっかく押さえたのに…」

「おー、残念だったな」


渡辺さんの言葉に、少し笑いが混じってる。
…この人、絶対に面白がってる。


「しかも自分、この試合観る為に、わざわざ有給取ってたんすよ!」

「確かにオマエ、来週の土曜に有給申請してたよな」


若干涙目になりながら力説する自分に、渡辺さんが爆笑しながら答える。
そのまま立ち上がった渡辺さんは、自分の肩をポンと叩いた。


「まぁ、せいぜい頑張れ。休憩時間終わるぞ」
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