拗らせボーイの恋模様
「ねぇ、皆は恋人とかっているの??」

この会社の上司、小柳先輩は酔っ払うと

この手の話をよくする。男のくせに。と言ったら


あれかもしれないが、未だにこの話題にはついて


いけそうにない。


梅雨の時期も終わりが近づき、入りたての新人も


飲みの場に慣れてきた頃、気が緩んだ先輩の声に


周りにいた全員が耳をむけた。


   「どーなの実際さぁ〜社会人て

         出会いなくない?」

   
    「確かにそれはそーっすよね!」

     
     白石のやつ、話広げんなよ。
    

      皆困ってるじゃねぇか。


    「てか嶋田はどーなのさその辺!
   
     毎回スルーしやがってさぁ〜。」



   「…別に、いないっすよそんなん」



     「いやいや、お前いるだろ」



       「は?いねぇよ」



   白石のやつ、話ややこしくすんなよ。



  「え!?お前まだあの幼馴染みと
    
       付き合ってねぇの!?」



 「…お前なぁ、そういうことでっかい声で

 言うんじゃ..

 「え!?なに嶋田!幼馴染み好きなの!?
    
             マジで!?」



  …くそが…。小柳がのってきやがったし…
(↑先輩をつけなさい)



「そーなんすよコイツっ!小学校から一緒の

幼馴染みのことずーっと好きなんすよ!で!

未だになんの進展も起こらず告らず仕舞いで

仲良しな幼馴染みやってんすよ!!

 なんか言ってやってくださいよ先輩!」



「……白石あとで覚えとけよ。」



「ひぃっ⁉︎ご、ごめんって真也くん親友の僕に免

じて許してちょ♡」



「…黙れたらし。あと語尾に♡つけんなキモい」



「にしても意外だなぁ…。

あの嶋田に好きな子が…

無表情無関心で人よりゲームな人間がねぇ〜」



「なんすか。別にいいでしょ」



「あっ認めたっ!イテッ!ちょっ叩くこと

            ないだろ真也!」



「うるせぇお前が悪いだろーが

ぺらぺら喋りやがって!」


「いいじゃねぇか減るもんじゃねぇんだから。

で!どんな子なの!

ゲーム廃人君の好きな子って!」



「…小柳さんに言ったらなんか減りそうだから

やめときます…」



「んだとテメェ!!」




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そんなこんなで結局俺の話は終わり知らないうち



に小柳さんの最近フラれた彼女の愚痴を永遠に



聞かされて飲み会が終わった。



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「んじゃ解散でー!家同じ方向のやつ一緒に帰れ

よー!特に女の子と家同じやつちゃんと送ってい

けなー!」

「へーい」「うす」「はーい」「うーっす」



「んじゃ行こっか、神崎さん。」

「あ、はい!今日もお世話になります!」

「いえいえ笑。俺も家こっちだし、気にしない

で笑」

「……。」「……。」

神崎さん。今年の新人で最近は飲み会の帰りほと

んど一緒に帰るためよく話はするんだけど、正直

昔から話すことが苦手な俺はこういう静かめな子

がどうも苦手で、未だに帰る時は割と気まずい。

「…嶋田先輩って…」

「ん?」

「…好きな人、いたんですね。」

「…あぁ、さっきの話、聞こえてた?」

「割と皆興味持って聞いてましたよ。あの嶋田さ

んに好きな人がーって。それにほら、白石先輩よ

く声通るから…」

あいつ…

「…でもほんと意外でした。その人、どんな人な

んですか?」

「…別に、普通の人だよ。なんで?」

「あ、いや…ちょっと気になったと言うか…」

「皆気にするよな。そんなに俺に好きな人がいる

のって変なの。てか人の恋愛に口出してないで自

分のこと気にしろよって…

あ、いや、違う!神崎さんのこと言ったわけじゃ

なくて!…ってあぁもう!ごめん。完全な八つ当

たりだ。ちょっと悪い酔い方したみたい。悪いほ

んと。気にしないで」

「あ、いえ。私こそ…ごめんなさい…。」

あーもう!何やってんだよ俺イライラしてんの後

輩に当たるとかどーなんだよ!

「ふっ、こんなんだから振り向いてもらえないん

だろうな笑」

「…あの、」

「ん?」

「…私…嶋田先輩のことが好きです…!」

「……え…?」

「いや、あの、別にお返事とかが欲しいわけじゃ

なくて!てか普通に今好きな人がいるって聞いた

ばっかりだから!全然そういうのじゃなくて!た

だ!…好きだから…好きな人の好きな人が、どん

な人なんだろな…って気になっちゃって…ほんと

に勝手なんですけど…あの…えと…ごめんなさ

い…」

  ___あ、この感覚、俺も知ってる。___

俺もこんな風に、あいつに思ったことあったんだ

った。

「……綺麗な子だよ。」

「え?」

「…俺の幼馴染み。

街で歩くと一度はあいつを見るくらい見かけが良くて

なのに女っていうより野生みたいなやつで

自由人で

気が強くて

方向音痴で

勉強が嫌いで

でも夢があって

それに向かって一生懸命で

絶対に人のせいにしなくて

道でおばあちゃんがデッカい荷物持ってたら当た

り前のように助けに行くやつで

よく分からないって言われる俺のことを…


分かりやすいねって言う。

  多分これからもずっと、
 
     _________俺の好きな人。」


きっと、変わらない。

ずっと俺の、奥にいる。

何がなくなったって、一緒に、そばにいたい奴。

「…困ったなぁ。そんなの勝ち目…ない…じゃな

いですか」

「…うん。ごめん。」

「…知ってましたか先輩。好きな人のこと、どん

な人か答える時、その人が好きな好きな人の部分

を答えるんですよ。…先輩は、その幼馴染みさん

の良いところも、悪いところも、全部好きなんで

すね。」

「…そうだと思う。
あいつには、敵わないから。」

「っ!…そんな顔、先輩にしてもらえるなんて、

幼馴染みさんが羨ましいです笑」

「…まぁ、向こうは幼馴染み以上の関係なんて、

望んでないけど」

「小学生のときから好きなんですよね?ずっと告

白してこなかったんですか?」

「…いや、小学生のころから知ってはいたけど、

仲良くなったっていうか、放課後とか一緒に遊ぶようになったのは中3だったかな。好きになった

のは高校上がってからだし。」

「え、そうなんですか!?なんで急に高校で?」

「…んーなんか、こういう話したことないんだけ

ど…」

「いいじゃないですか!減るもんじゃないし!私

気になります!」

「…なんか神崎さん、そんなキャラだった?」

「あっさりフラれたんです!その見舞いくらいは

貰わないと!!」
 
「そう言われると何もいえないんだけど…」

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「別に、人に言えるようなことは何もないよ。

ただ俺、高校で何回か告白されて。正直流されて

っていうか、若気の至りっていうか…まぁなんと

なくで付き合ったんだけど。

それまであいつとしてたことがっていうか、家ま

で一緒に帰ったり休みの日に出掛けたり、そうい

うのが面倒っていうか、それくらいならゲームか

なって思っちゃうんだよね。

でも、あいつの時っていうか、あいつが休日に誘

ってきたときも、一緒に帰るからって2時間待た

されたときも、そんなこと1ミリも考えなかった

んだよな。

それどころか、あいつと会うときにゲームなんか

のこと考えたことなかったんだよ。

この廃人ゲーオタ野郎がだよ?笑えるだろ。


…そのことに気づいた途端、なんか思っちゃって。」

「…なにを?」

「…あぁ、あいつは特別だったんだな。って。

そんでその時は勘違いだろくらいのものだったの

が、思えば思うほど、考えれば考えるほど頭から

その意識が離れなくなって…

気付いたら手に負えなくなってた」

「って悪い。なんか自分語りしすぎたよな。」

「いえ、私が聞いたんですよ。気にしないでくだ

さい。」

「でも、言わないんですか?好きだって。」

「んー…言えたらこんな拗らせてないんだけどねぇ〜笑」

「そーですよね。案外先輩って奥手なんですね笑」

「まぁ、実らなくてもいいかなって最近は思ってきてるし」

「え、どうして?付き合いたいって思わないですか?」

「いや、そりゃ付き合えたらどれだけ良いかって
話だし、昔からずっと願ってはきたんだけど。
なんていうか…今のまま、ずっとあいつの幼馴染みとして、あいつのそばにいれるなら、それでもいいかもなって。下手なことしてこの先、会えることすら出来なくなるくらいなら、このままの方が。変化なんて求めない方が。って
…情けねぇよな笑」

「…わかります。その気持ち。」

「…まぁ、ゆっくり行こうってやつだな笑

それにほら、長期戦は慣れっこなんだよ。俺。」

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それっきり、俺の話は終わって。

そこからは他愛もない仕事の話とかで、気づけば

神崎さんの家について、そのまま別れて家に帰っ

てきた。

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「…長期戦ねぇ…ただの意気地なしが何言ってんだか…」

「…よし、ゲームすっかな!笑」



きっとまだ言えないだろう。

少なくともしばらくは。

それでも、この想いはずっと消えない。

それでいい。いつか。いつかでいいんだ。

この想いが届く日が来るまで。

出来れば受け入れられる日まで。

受入れられなくも、それでもいいと思う日が来るまで。

そんな日が本当に来るかなんか分からない。

それでも

今は、奥手男子とかいう言葉に甘えて

このまま。いつものままで。

いつかさ、振り向いてよ。

 

          終
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