prologue
カチャンという音が目の前からして、顔を上げる。
ケーキの乗せられたお皿が置かれていた。
見上げると彼が微笑みながら口を開く。
「明日、卒業されるんですよね?
僕らからのお祝いです。」
「ありがとう、ございます」
綺麗に飾られたガトーショコラ。
あまりの驚きに私は言葉が詰まる。
「実は僕、卒業生なんです。
ちょうど入れ替わりなんで学校で会うことはなかったけれど。」
「そうなんですか。」
「三年間、通っていただきありがとうございます。」
あなたに会うために通ってました、なんて言えない。
挨拶以外の会話が、こんなにもうれしいなんて。
「進学されるんですか。」
「はい、都内の大学に。」
だから、もう、ここには、これない。