prologue
「寂しくなりますね。」
その少し下がった声のトーンに胸の奥がきゅっと締め付けられる。
そんな顔しないで。
「ここ、大好きです。
飲み物もケーキもおいしくて、ここから見える景色もすごく好きで。」
卒業したくない、率直にそう思った。
ここが大好きで、彼に会いたくて。
改めて振り返ると、みんなの言う通り彼のことが好きだったのかもしれない。
でも私のこの恋物語はもう終わり。
言うなれば今はもうエピローグだ。
ガトーショコラを口にふくむと、甘すぎないチョコの香りが口の中に広がる。
試験終わりとか部活の試合で勝った日とか、特別な日に食べていた。
「やっぱ、おいしい。」
目の端に浮かんだ涙を親指で拭った。
今日は特別な日だ。
「ケーキ、ありがとうございました。
また明日、来ますね。」
ケーキもカフェラテも食べ終えて、私はカウンターに立つ彼に挨拶をして家路についた。