あやかしの集う夢の中で
「違うんです、桜介君。

時宗君はカノンをかばうためにケガしたんです!

時宗君はとっても強いのに、カノンが時宗君の足を引っ張って……」



カノンはそう言うと、目にいっぱいの涙をためて泣き出した。



時宗が大ケガをしている理由を知った桜介たちは、次にどんな言葉をかけて良いかがわからなくて戸惑っていた。



するとそのとき、大ケガで苦しんでいる時宗が声を荒げてカノンに言った。



「泣くな、綾瀬!

泣いても状況は良くならない。

オレたちは今、自分たちにできる最善のことをするべきだ」



「自分たちにできる最善のことって……。

カノンにできることがあればいいですけど、カノンは弱くて……、役立たずで……」



「自分を低く評価するな。

夢の中の世界では思いが強い者が最強なんだ。

自分の力を信じきれ。

そうすれば綾瀬も強くなれる!」



時宗の強くて真剣な声は、必死にカノンを励ましていた。



でも、元から優しくて人との争いを好まないカノンは、誰かを倒すために強い思いを抱けない。



そのことに気づいた愛理は優しくカノンに話しかけていた。



「カノンちゃんの技は癒しの技だよね。

その技を使えば、時宗君の足のケガもきっと治るよ。

だからカノンちゃんは自分を信じきって。

自分だけが持っているすごい力が時宗君を救うんだって」



「カノンだけが持っているすごい力ですか……」



カノンは泣きはらした目を愛理に向けてそうつぶやいた。



愛理はそんなカノンに優しく言葉を繋げていた。
< 123 / 171 >

この作品をシェア

pagetop