あやかしの集う夢の中で
「す、すげぇ……」



桜介は時宗の鮮やかな戦いぶりを見て、無意識のうちにつぶやいていた。



時宗が本当にスゴい奴だと桜介は最初から知っていた。



でも、なるべくその現実から目をそらし、桜介は時宗にだって勝てると、ずっと自分に言い聞かせていた。



時宗は桜介の憧れであり、理想の姿だ。



何でもない平凡な中学生の自分が、もしも時宗みたいに万能でイケメンでめちゃくちゃモテたらと、桜介は自分の部屋の中で何度も何度も想像していた。



その度に、どうしようもないほどに時宗への憧れと嫉妬の感情が沸き上がった。



そしてその感情が桜介の胸の中を満たすとき、「ああ、自分は自分ではない何者かになりたいんだ」と、桜介は自分の本当の気持ちに気づかされた。



そうだ……。

自分はあの風間時宗になりたいんだ……。



「桜介君、大丈夫ですか?」



カノンが大きな胸を揺らしながら桜介の元に駆け寄り、心配そうな顔で桜介に話しかけていた。



「カノンちゃん……。

情けないけど、ダメだよ……。

オレはもう動けないよ」



桜介は全身に激痛を感じながら、苦笑いを浮かべていた。



自分は時宗みたいにスゴくない。



自分は足りないことが多い人間なんだと自覚しながら。



でもそのとき、聞き慣れた強い声が桜介を叱咤した。



「ダメなことなんてないよ、桜介!

だって桜介は言ってたじゃん。

桜介は夢の中の世界で最強だって……。

時宗君に勝つんだって……」



いつの間にか桜介の元に駆けつけていた愛理が目を涙で潤ませながら、桜介の顔をのぞき込んでいた。



桜介は愛理のそんな悲しそうな顔を見ていると、胸が締めつけられて苦しかった。
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