青は奇跡
「……せっかくだから、まわるか」
どきん、と心臓が鳴った。
授業中に指名された時とも、クラスの明るい女の子に話しかけられた時の緊張とも違う、心臓の感じ。
この感覚をどうしていいか分からず、わたしは俯いて、ローファーの先を見つめた。
心なしか、顔も赤い気がする。
一体、何が恥ずかしいんだろう。
ただ、お祭りを一緒にまわるだけで、恥ずかしいことなんて何一つないじゃない。
「……うん、まわろう」
それだけ答えるのがやっとだった。
届いたかどうかは分からないけれど、歩き始めた夏川くんの背中について行く。
ちょうどその時、境内の中央の方から盆踊りの音が聞こえてきた。
小さい頃は、わたしもよく一緒になって踊っていた。
お母さんに着せてもらった浴衣に、下駄を履いて、帯にうちわをさして友達と山車の周りを踊り歩いた。
もう、あの山車の周りには近づくことはないだろう。