青は奇跡
誰もいない教室で自習をしていると、ドアが開く音がした。
気にせずに問題を解いていると、足音はどんどんこちらへ近づいてきた。
晴天の時は教室内はかなり明るいのでわたしは電気をつけない。
でも、誰かが来たら薄暗いのが申し訳なくてなるべくつけるようにしている。
席を立ち上がり、顔を上げると、目が合った。
互いに素の表情で目を合わせたのなんて、これが初めてじゃないだろうか。
電話で話していたはずなのに、わたしと夏川くんは、遠い。
わたしより遥かに人生経験を積んでいるように見える。
「…おはよ」
「…あ、おはよう」
…何か、続けるべきだろうか。
喋ることもないのに目を合わせているのはなかなかつらい状況なので、問題に目線を落とした。
隣でカバンから教科書を出したりブレザーを椅子に掛けたり、椅子を引く音が遮るものもなく、わたしの耳に入る。
静かな空間は好きだけど、こういう沈黙は耐え難い。
息さえしづらい。
「存在が申し訳ない」なんて言ったら夏川くんは鼻で笑うだろう。