不細工芸人と言われても
忘れた頃に
あの日、宮嶋ADとカホの立ち話を聞いてから、俺は完全にカホへの淡いなんだか得体のしれないほわほわした気持ちを封じ込めていた。
仕事で会っても、普通に今まで通り。 挨拶もするし、少しの世間話。 俺の人生とカホの人生は、週一回の番組収録の衣装合わせの時だけすれ違う。
俺は相変わらずバカを言い、たまに仲間と我を忘れるほど飲んだくれ、明日の事は考えない。

しかし、忘れた頃に待ち人をやってくると言う。

俺は少し風邪をひいてしまった。
先週、まだ肌寒い春先なのに外でパンツ一丁で撮影があったからだ。

なんとか今日の番組の撮影も終え、相方のカドスケやマネージャーには早く帰って寝ろと言われ、タクシーに押し込まれた。
明日もまた雑誌の取材がある。
ガッツリ寝て治さなければ。

マンションの部屋に戻って、ベッドに転がり込むようにして死んだように眠りこける。

夕方、俺のベッドに夕陽が射し込んで、目がさめる。

汗をびっしょりかいたので、シャワーを浴びようと起き上がる。
まだ少しだるい身体で、冷蔵庫に行き、開けてため息をつく。
缶ビールしかないし。 まあ、いっか。 喉は渇いているし、とりあえず。
これじゃ治るもんも治らねえよなあ。

缶ビールを半分くらい飲んで、ベタベタしたシャツを脱ぐと。俺のスマホのバイブがテーブルの上で震えている。
見知らぬ番号だ。
出ようか出まいか迷ったが、とりあえず出てみる。

「はい。」

「もしもし?高岡さん?」

女?誰? この間先輩と行ったキャバクラで酔った勢いで番号とか渡したかな?

「……………。」

「桜山です。桜山果歩です。」
「え」
俺の胸が急に高鳴る。
マジかよ。。。番号のちょうちょの紙は、捨てられてはいなかったんだな。

「高岡さん、大丈夫ですか?今日の撮影、辛そうだったから。」
「ああ。大丈夫。…………〜ありがとう。」
俺の頭はまだ混乱していた。 熱でうなされて、夢でも見ているのかと思う。
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