不細工芸人と言われても
カホは、プリプリと怒っていたが、お腹も満たされて、ビールで少しだけほろ酔いになってくると、すっかり怒りは忘れてしまったようだ。

「はあ、美味しかった。 夜中にあんまり食べないって決めてたのにいっぱい食べちゃったな。」
ちくしょー、かわいいな。

俺は、また堂々めぐりの考えが交差していた。
もう、決まった撮影で会うこともない。
俺の小さな喜び、小さなお土産作戦もできなくなってしまう。

もう仕事上あまり関係ないとなれば、気にしなくてもいいわけだ。
このまま勢いで押し倒して俺のものにしてしまおうか。
いやだと言われて抵抗されても、こんな風に無防備で男のマンションにやってくる方が悪い。
ふとそんな悪い気持ちがかすめる。

…………そんな勇気も度胸もないくせに。 幻滅されたり、信用を失うのが一番怖いのに。

「 現場で会うのは、もうあと二ヵ月ですね。」
「急だね。」
「そうですね。決まるときはポンポンと話が進むものですね。」
「そっか。。。」
カホは、ふふふと笑って
「さみしい?」
「別に。」
「私はさみしいですよ。最初は抵抗あったけど、テレビの人たち今はみんな大好きです。」
「そっか。。。」
また、おもしろいことなんかひとつも言えない。
みんな、大好き。か。

「また、こうやって、たまに遊びに来ればいい。仕事の愚痴くらい聞いてやるよ。」
カホは、少しびっくりした顔をしてにっこり笑う。
「うん。ホントに来ちゃいますよ。」
「いいよ。美味しいごはんまた作ってやる」
「そうですよね。今度は本格中華って言ってたのに、結局実現しなかった。」
「お互い忙しいからな。」
「高岡さんがここ最近、またまたいろんな方面から人気者になったからですよ。 マルチだなあ。」


これじゃ、ただのいい人だ。
それでもいいから、隣人としてこういう関係でいられるならずっとこうしていたい。

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