不細工芸人と言われても
ネタであっても全力で
ある深夜の番組で、いつもけっこう俺たちコンビと一緒に出ている女芸人の一人、よしのが、俺の事を好きだと言う。
番組のドッキリみたいなコーナーで、俺が突然彼女に公開告白され、無理矢理キスまでされるという構成で、案の定俺には全く知られていないしその慌てっぷりと、その後は、もう俺もヤケになって笑いを追求するがために暴走したのもあって、ものすごいウケてしまった。
不細工芸人が、女の不細工芸人に好かれるというそのシチュエーションに、みんながみんな笑い、そして注目した。
テレビなんてそんなもんだ。 自分自身の身や気持ちまでも切り売りして、ウケを狙う。
彼女がどういう気持ちでこの企画に乗ったのかは知らないが、俺はそうと来るならなんだってやる。
彼女をこっぴどく拒否して蔑むのか、それとも受け入れているフリをするのか、どちらに持って行くのが一番おもしろいのか?
ある意味、狂気である。
その日のトレンドワードは、俺の名前とよしのの名前スペース 結婚 とか、 交際 とか お似合い とか。
なんなんだよ。それ。 誰が仕掛けたんだよ。
どんな番組でもそれをネタにされるようになり、しかもホントに二人のツーショットが撮れるんじゃないかという事で、俺のマンションで張ってる記者まで出た。
まあ、飽きられるまで、のらりくらりとこの立ち位置はやっていくしかないのかもしれない。
おもしろければなんでもいい。笑われるのは嫌いじゃない。それでみんなが笑ってくれるなら答えられるものなら答えてやる。
カホが、俺たちの番組を離れて半年が経とうとしていた。
もう、連絡すら取っていない。
このまま、それぞれの道に進み、もうその道が交差することもすれ違うこともないまま、縁のないものになっていく。
それで、いいのかもしれない。