不細工芸人と言われても
パーティー会場の裏口から、タクシーに乗り、後ろのシートに身を沈める。
今日もおつかれちゃん。 俺、ずーっとハイテンションで頑張った。
少しため息をついて、窓の外を見ていると大通りから東京タワーのさきっちょが赤く光っているのが見える。
深夜でもそれなりに人がいて、地下鉄の駅や街に向かって歩く人や何人か集まって次の店へなだれ込む相談でもしているのか楽しそうに酔っ払って立ち話をしている。
そんな風景を流れるように見ていると、ふと目が留まる。
カホが地下鉄の駅に向かって一人で歩いているのを目にした。

俺は反射的にタクシーの運転手にこう言った。
「すみません、ちょっとあそこに寄せて止めてもらえますか?」

道に横付けしてもらってちょっと待っててもらうように言い、俺は、カホの背中を追いかける。
「おい、」
なんだよ。えらそーに、声かけてんじゃねーよ、俺。

カホは、ちょっとびくっとしてそおっと振り向く。
俺だと気が付いて、少しホッとした顔をして笑顔になる。
「あ、高岡さん、ビックリしたー。今日はお疲れ様です。」
心なしか、俺の胸あたりがきゅんとなる。かわいい。。。

「、、、、、、帰るの?」
気持ちとは裏腹にとっさに目をそらしてぶっきらぼうに話してしまう。

「はい。今日はお疲れ様でした。 楽しかったです。」
カホも俺を前に少し緊張している。

「………一人なの?危ないよ。」
カホは、そのくりっとした目をさらに丸くさせて、ビックリした顔をしてあはははと笑う。
「まだ12時前だし、終電もまだあります。ここは東京ですよー。 高岡さんが真面目なこと言うとなんか逆にオカシイです。」
素の俺はこんなだっつうの。 俺はちょっとムッとして
「送るよ。タクシーあっちにいるから。」
俺は、返事を待たずそのままタクシーの方へずんずんと歩いていく。
いいですって遠慮して断られるのが怖かったからだ。
カホは、黙って俺についてきている、、、と思う。
振り返って確かめはせず、少しヒールのある靴を珍しく履いているカホの足音を後ろに全集中して聞いている。
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