不細工芸人と言われても
師走。やっぱり会うと。
季節は気がつけば、師走。

思えば夢中で、全力疾走したような一年だった。
年末進行で詰まっていたスケジュールも終わり、あとは忘年会やら打ち上げばかりの日々。
そういえば、正月休みはどうするかなんて考えもおよばず、ここまできてしまった。
家族のいる相方も仲間たちも、もうすでにハワイで過ごすことを決めているっていうのに。

まあ、正月は実家にも帰らず部屋でひたすら寝て終わりそうだな。。。
ため息をつき、マネージャーに促されるまま、次の現場へと向かうタクシーの中で、ボンヤリとまたたくネオンの夜の街を眺める。

次の現場は、端役で出たドラマの忘年会だ。
顔を出して、監督やプロデューサーに挨拶をしたら、すぐに会場を出よう。
今夜はそれで終わりだ。

麻布のクラブのパーティー会場に入ると、既にもうパーティーは中盤で、入るなり舞台に引っ張り出されひとことというか一発芸かおもしろい事をやれというむちゃぶり。
相方もいねえのに、マジか。
と、思ったが、監督のモノマネで大爆笑をかい、監督も舞台に引きずり込んで巻き込み、会場を沸きに沸かせて俺の役目は終わった。

監督には巻き込んでさーせんっと謝って乾杯をし、プロデューサーに絡まれ飲まされて、さ、トイレに出たついでにドロンしようとしたところで、ある一人の女優に会場の廊下で捕まってしまった。
「高岡さん、ここでて別のところで飲み直しません?」

胸の谷間を強調するような襟元があいた服。 ちょっとしなだれかかるようにして、話しかけてくる。
おっとー。これは誘ってんな。
ちょっとムラっとくる。
忙しくてずっと女っ気なかったし、ここらで一発、、、。

ふと、外の方を見やって、男女何人かのグループがここの別会場での会がお開きになったのかたむろっている。
その後方に、カホがいるじゃないか。
カホもこちらに気がつく。目が合って、カホは俺が女にベタベタされてる状況を察したのか、慌てて目をそらし、そのグループから遅れないように早足でエントランスを出て行く。

一瞬見間違えるほどカホの頭は、ショートカットになっていた。そして少し明るめの髪の色。ぐるぐる巻きのマフラーをして、シュッとした細身のデニムに足首までのブーツ。

目の前のおっぱいより、すっかり俺は上書きされる。
「いや、ちょっと今日はこの後もまた回らなくちゃいけないとこがあって、、、。」
俺はモゴモゴとそんな事を言いながら、女の手をふりほどき、フラフラと出口の方へ出て行く。


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