不細工芸人と言われても
道中、熱海で本当に温泉プリンというのを見つけて爆笑しながら海辺で食べ、海辺の遅い昼を食べて夕方には伊豆の旅館に着いた。
やっぱり、ロン毛をニット帽に隠して、メガネを外して少し無精髭を生やしているだけで、ほぼ俺だとは気がつかれない。
簡単な変装だ。

いろんなことを話しながら、運転中、俺は頭の片隅で、今夜のことを思いあぐねていた。
もう、いっそ告白してしまおうか。
いや、でも、それで気まずくなったら、こんな楽しい旅は台無しになってしまう。
しかし、なんでカホは俺との旅にOKしたんだよ。彼氏はどうした?
どうして、実家に帰らない?
彼氏に会いたくないんか?
俺に襲われたらどーすんだ。

カホは、宿の荘厳な雰囲気を目の前にして、不安そうな顔をして俺を見る。
「ここ、いくらですか?高そう。」
「そういう心配しなくていいの。押しも押されもせぬ大人気芸人のお財布をアテにしてください。」
「……………でも、そういうわけには。 彼女でもないんだし。」
あーはいはい。そうですね。はは。釘を刺されたわ。
「俺が誘ったんだし、宿も俺が決めたんだから今回はそうして。」
「……………ありがとう。」
「はい。気にしないで楽しもう。」
そう言ってカホを中へ促す。

俺は、小さくため息をつく。
すっかり、気持ちは萎えて勇気のひとかけらもなくなってしまう。

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