不細工芸人と言われても
更衣室のハンガーかけに出演者順に並べて、カホ は真剣にチェックしている。
更衣室には俺とカホしかいない。
こんなチャンスはまたとない。
俺は、適当にそこら辺にあった紙に自分の連絡先を書いて、カホの目の前にひららひらさせる。

「?」
「俺、もう楽屋戻るね。 」
ピラピラとちょうちょのように、俺の手でピッとカホの肩にその紙は止まる。
「あ、手伝ってくれてありがとうございます。」
カホは不思議そうにその肩に止まった紙を受け取る。

「なんか困ったこととかあったら、連絡して。ご近所さん同士。」
「困ったこと?」

「うーん、例えばー、変な男につきまとわれてるとか、下着泥棒にあったとか、火事になったとか、大地震がきたとか、金落としたとか、トイレの電球の取り替えとか?
まあ、お部屋見学も来たかったら来てよし。狼さんがいるからその覚悟があるならよし、赤ずきんちゃん。」

カホは、プッと吹き出してまた笑い出す。
「ありがとうございます。」

なんだか急に恥ずかしくなり、俺は、ヘラっと笑ってそのまま更衣室を出る。
俺はツメが甘い。カホの番号を聞き出すことまではできない。そういう男なんだ。

でもなんとかお近づきになれたじゃないか。
まあ、でも連絡が来るかどうかは別にして。
< 8 / 108 >

この作品をシェア

pagetop