不細工芸人と言われても
夕方までキングサイズのベッドで、二人でまどろみ、またゆっくり交わり愛し合う。
「……すごい。もお………とろけちゃいそう。」
「ん。……俺も」
海に日が落ちるのをベッドの上で一緒に二人で眺める。

「夕飯、どこか探そうか。」

ホテルを出て海岸沿いを散歩する。
寒かったけど、冬の夜の波の音がキレイで、俺たちは手を繋いだまま一言も話さず、波の音に耳を澄ませていた。
海岸沿いにレストランがあって、正月なのに灯りがついていた。
そんなに混んでいなくて、地元の家族やカップルが数人いるだけだ。
俺たちは、窓際の薪ストーブのある横のテーブルに通される。
「わ、あったかい。」
カホは、ホッとしたように、そのストーブに手をかざす。
そんな仕草もかわいい。
俺は、少し笑ってコートやニット帽をかけてやる。
帽子も取って、俺のロン毛も見えて周りの客には気が付かれた様子だったが、もう構わない。
それに、良い客層ばかりだったのか、そのあとは特に声もかけずにそのまま見知らぬそぶりをしてくれた。

けれど、話を聞き耳立てられるのも嫌だから、俺たちはひっそりと小さな声で話す。
「こういうの、ずっと夢だった。」
「うん?」
「こういうレストランで、まったりと大事な人と時間を過ごす。」
カホは微笑んで、サラダを口に運ぶ。
「ねえ、これってふつーだよ?」
「ん?」
「ふつーの結婚とかは無理だって前言ってたでしょ? 結局そうなっちゃったよ?昔のお師匠さんたちみたいになりたいんじゃないの?」
俺は苦笑する。
カホと一緒にいられないと思ってたから、そう言ったまでなんだけどな。
「……………………。」
「何?その微妙な沈黙は。」
「……………いや…………なんつうか、俺にとっちゃあ今こうやってる事が奇跡で、フツーじゃないんだけどな。」
「どゆこと?」
「わかんなきゃいいよ。 深く追求するな。」
「また、そうやってごまかす。」
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