不細工芸人と言われても
焼きたての美味しそうなピザが運ばれてきて、俺たちはデキャンタで赤ワインを頼んだ。

カホは、それをひとくち飲んでグイッとテーブルから顔を近づけて俺に囁く。
「あのさ、………私のこと、いつから好きだった?」
「え」
なんだよ、急に。
俺も、ひとくちワインを口に含んで、窓の外の冬の暗い海を眺める。
「さあ、………いつからかな。」
「あ、またとぼけた。」
そんなん言えるか。最初に会った時からずっと、なんてさ。
かっこ悪いし、なんかやすやすと言うのが悔しい。
キラキラした目で、じっと俺を見るカホを目の前にして、俺は素直になんかなれない。
まあ、いつかは教えてやってもいいけど。
「………教えてくれないの? ケチ。」
「じゃあ、お前は?」
それは、俺も知りたいところだ。
「教えない。」
べっと舌を出して、カホはプンッとそっぽを向いてピザに噛みつく。
「わ、うまっ、冷めないうちに食べなよめちゃ美味しいよ、これ。」
俺は吹き出して笑う。カホは、コロコロと表情が変わる。
もう、ホントかわいいな、こいつは。

切り分けられたピザを俺も口に運ぶ。
「ホントだうまっ」

「じゃあ、いい。質問変える。」
「……なんだよ。」
「私が昨日言わなかったら、ずっと、ああいう関係続ける気だった?」
「え」
「友だちでもないし、ご近所さん付き合いでもないし、妹や弟みたい? それとも姪っ子みたいにかわいいって言ってた感じ? そういう関係のこと。」
わあ、するどいな。
「…………………。」
俺は、弱ったなーと頭をかいて、また目をそらす。
ホントにこいつには敵わないな。
「ねえってば。」
「えっとー…………黙秘します。」
「な、なにそれ?」
カホは完全にプンスカ怒っている。
「そんなに怒るなよ。」
俺は、弱り果てて頭をかく。
なんか絶対この先、尻に敷かれるよなあ。
「…………だって、たまに創士君のこと、よくわからないんだもん。」
カホの潤んだ揺れる瞳に、俺はめちゃくちゃ弱い。
「ああ、もう、ゴメンって。俺が悪かったです。」
「なあにそれ。とりあえず謝っとけみたいなの。」
カホは、不機嫌に黙り込んで、もくもくと目の前のピザにかぶりつく。

「…………まあ、いいや。ピザ美味しいから。」
俺はまたおかしくて笑う。
「そりゃ、俺、この店に足向けて寝らんないわ。」
カホは、ピザを頬張ったまま、キロっと俺を睨む。
はい、すんません。
俺は咳払いをして、ワインをまたひとくち飲む。
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