私たち、兄妹は踊り手です!
「…………梨乃、おかえり」

ぎこちない笑顔で、お兄ちゃんは私を見る。

「何聞いてるの?」

「『少女レイ』って曲。何か俺に似てるなって……」

その笑顔の中に、辛さが混ざっているような気がした。あの日、お兄ちゃんの友達は、電車に轢かれて亡くなったんだって。

それからお兄ちゃんは、うつ病を発症。でも、本来のうつ病とは違うんだ。お兄ちゃんが発症したのは、『非定型うつ病』っていううつ病。

従来のうつ病とは、真逆の症状が出るんだって。

「ん?お兄ちゃん、食べ過ぎ!」

私は、捨てられているお菓子の袋を見つめて言う。うつ状態になるのが夕方から夜、過食してしまったり、好きなことを楽しめたりするのが症状なんだそう。

「次は、ヤエくんに考えてもらった振り付けで『少女レイ』を踊ろうかな~」

そう楽しそうに言うお兄ちゃんが、うつ病を持っているとは、誰も思わないだろう。非定型うつ病は、気分が落ち込んでない時は、無症状のように元気になるらしいし。

「ねぇ、梨乃!」

ニコリと笑ったお兄ちゃんは、私に近寄ってくると「可愛い!」と言いながら、私に抱きついてきた。

お兄ちゃんは、うつ病を発症する前からそうだったけど、いつも急だからな……。
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