【BL】氷上の王子様
ドアベルを押すと、しばらくの間静かになった。

部屋の中の音が全く止んで、一分ほど待たされた後、扉が開いた。


出てきた人物に……


「あっ………あの時の!」


僕は驚いて、一瞬後ずさった。


出てきた男性は、ジーンズに白いワイシャツを着て一見清潔そうだけど、頭は鳥の巣でクマが酷い。


そして何よりも、この目の前の男性は、あのスケートリンクでブッ転んでいた彼だった!


「あ、あの……」

「なに」


こ、怖い……

ただでさえ迫力のある大きな身長が、上から鋭い目線で見下げて来るのは恐怖だ。


「隣の部屋に居るんですけど……寝る時だけはちょっと、暴言と言いますか……大声はやめてもらえませんか?」

「大声……?俺は一言も喋ってないぞ」

「いや、でも確実にあなたの部屋から…、」

「とにかく俺には時間がない。特に今は相当時間がない。悪いが朝までほっといてくれ!」


ドアはバタン!と閉められてしまった……。


僕は諦めて、自分の部屋で眠ることにした。

せめて、少しでも静かな時に眠るしかない。
小分けの睡眠でもいいから取っておかないと…。

布団の中に入ると、すぐに夢の中へもぐっていった。


しかし次に起きたのは、たった三十分後のこと。

突然、部屋の前からバタバタと大人数の走る音が聞こえた。

それで目を覚まし、重い体を上げると、隣の部屋から今度は女性の声がする。


『イトウ先生、起きてください!てか起きなくてもいいから原稿だけよこせ!』

一瞬ヤクザか……?と思うような女性の声は、『あった!』という大声を皮切りに明るくなった。

数人の男性が『やったぞ!』『これで間に合う…』と言いながら、また僕の部屋の前を走ってどこかへ帰っていく。


眠いまなこを擦りながら、少し様子を見るためにホテルのドアを開けた。

廊下にはもう誰もいない。


あの嵐のような罵声と大軍はなんだったんだ?

ふと隣の部屋のドアを見ると、完全には閉じないで、少し開いたままになっていた。

「無用心だな…せめて閉めろよ……」


隣の部屋のドアを閉めるために、ドアノブに手を掛けた。

しかし、薄暗い部屋の中に人影が見えて、僕は大きく叫んだ。
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