二度目の初恋
「藍純悠永(あいずみはると)くんだよね?8月10日生まれで、好きな食べ物はスルメイカで嫌いな食べ物はにんじん。なんでスルメイカなんて好きなの?」

「父が良くつまみで...」

「へぇ、そうなんだぁ。そういえば、わたしこの前テレビで見たの。どこかの県ではね、スルメイカとにんじんが仲良く醤油に浸かってるんだよ。あれ?どこだっけ?」


なんだ、この子...。

すごく不思議な子だな。

オレの自己紹介をこんなに覚えてる人、初めてだ。


「それ、きっと福島県だよ。いかにんじんっていう郷土料理」

「ふぇ~、そうなんだぁ。初めて知ったぁ。藍純悠永くんは物知りなんだね」


初めて知ったと言ったけど、さっきテレビで見たって言ってたよな?

しかも、なんでオレの名前をフルネームで言うんだろう。

不思議というか、なんというか...でもやっぱり不思議だ。


「悠永くん、いかにんじんなら食べられる?」

「そんなの分からない。食べたことないし」

「なら、食べてみようよ」

「えっ?どうやって?」

「自分で作るんだよ。今の時代、パソコンがあるからレシピぃ調べられるでしょ?調べて作ったら持ってくるね!」


レシピ、ぃ?

作ったら持ってくる?

この子は一体何を言っているんだろう。

何語を話しているんだろう。

本当に日本人なのだろうか。

話に着いていけない。


「ってことで、よろしくね、悠永くん」

「あっ、うん...」


彼女はにっこり微笑み、オレはその子に圧倒されて頷いた。

だけど、彼女の笑顔はどこに咲いている向日葵よりも眩しく、オレはしばらくその横顔を見つめていた。

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