二度目の初恋
それが恋っていうものだと知り、自覚したのは、4年生になりたての春のことだった。

珍しく他の3人はそれぞれ用事があって集まれず、オレとゆいぼんだけで河川敷に遊びに行った。

ゆいぼんがどうしてもお花が見たいとうるさかったのだ。


「あるこ~、あるこ~、わたしは元気ぃ。歩くの大好き~どんどんゆこぉ~」


見事なリズム感と音程にクスクス笑っていると、前を行くゆいぼんが振り返り、オレを睨み付けた。


「なんで笑ってるのぉ?」

「別に」

「別に、じゃないでしょお?絶対わたしの歌を笑ってた!」

「ゆいぼんは歌わない方がいいと思う」

「ひっどおい。そんなこと言う人にはいいもの見せてあげないんだから!ふんっ!」


ゆいぼんはそういうと走り出して堤防を駆け降りていく。


「ゆいぼん待って!」

「待たないよ~だっ!」


走りながらオレの方を向いてあっかんべーをした、その直後だった。


「きゃあっ!」


ゆいぼんはバランスを崩して倒れ、そのまま土手を転がり落ちた。

オレは慌ててゆいぼんの転がった先に走っていくと、ゆいぼんは大声で笑っていた。


「ははははっ!あはははっ!」


この状況で笑えるって凄すぎる。

ゆいぼんは本当に超人だ。


「ゆいぼん、大丈夫?」


一応しゃがみこみ、ゆいぼんの顔を覗き込む。

ゆいぼんはオレの声に反応し、くいっとこちらに顔を向けるとオレの瞳を真っ直ぐに見つめた。

オレの呼吸が数秒止まり、息をした時には酸素の存在を急に感じて逆に苦しかった。


「悠永くん、わたし...怖かった。死んじゃうかと思った...」

「えっ?」


ゆいぼんはお天気やだ。

急に厚い雲に覆われ、そしてぐすぐすと泣き出した。


「ゆいぼん?」

「こわかったぁ!こわかったよぉ!うわ~ん!うわ~ん!」


ゆいぼんはオレに抱きつき、買ったばかりのチェックのシャツを涙と鼻水で台無しにした。

それでも怒りは沸き上がってこなかった。

代わりに胸に宿ったのはほのかに温かくて淡くて少しだけ甘い感情だった。

ようやく蕾が膨らみ、所々咲き始めた桜のような色をした、名前の知らない初めての感情...。

オレはその正体を考えながらもゆいぼんの体温と呼吸を感じて胸をドキドキさせていた。

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