二度目の初恋
するとゆいぼんが突然頭を抱え、床に倒れた。


「ゆいぼん!ゆいぼんどうしたの?!しっかりして!」

「思い出そうと...すると...いつも......こう、なる...の...」

「なら無理に思い出さなくてもいいよ。だからお願い。苦しむゆいぼんをアタシに見せないで...」


ゆいぼんは過呼吸になりながら数分間悶え苦しんだ。

アタシはその間ずっとゆいぼんの背中をさすり、呼吸を整えようとした。

しかし最後はゆいぼんが目を閉じて穏やかに意識を失った。

眠ったのだ。

アタシはやっと落ち着いて眠りに落ちたゆいぼんをじっと見つめた。

ゆいぼんの左瞳からは1粒の光の雫が顔をなぞって耳元に流れていた。

アタシは思った。

記憶はすんなり戻るものではない。

記憶を戻そうとするゆいぼん自身が苦しむのはもちろん、それを見届ける周りの人も胸をぎゅうっと締め付けられるのだと。

それは、記憶が良いものも悪いものも、楽しかったことも嫌なことも、全部全部詰め込まれている大切なものであり、凶器的な力を持ち合わせる媒体だからかもしれない。

アタシはその驚異を甘く見すぎていた。

だけど、諦めたくない。

アタシの思いは変わらない。

アタシもゆいぼんと同じ苦しみも辛さも味わうから、ゆいぼんだけに苦しい思いさせないから...だから、思い出してほしい。

大切な思い出も大切な人のことも...。

アタシはゆいぼんの頭を優しく撫でた。

ゆいぼんが髪を切ったあの日、アタシはその姿を見られないまま、また髪が伸びた姿で再会した。

艶やかで美しくて長い漆黒の髪。

幼稚園の時、この髪を羨ましいと思いながらアタシは隣でお昼寝をしていた。

アタシはちゃんと覚えてるよ。

だからお願い。

ゆいぼんも思い出して。

約束...だよ。

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