二度目の初恋
「ゆいぼん、さっき何か思い出したって言ってたけど、何を思い出したの?」

「ほんとに少しなんだけどね...ぼやーっと観覧車に乗ったことを思い出したの。たぶん妹だと思う。幼い頃家族で遊園地に何回も遊びに行ったって母から聞いてたし、それで今日観覧車に乗ったから思い出したんだ、きっと。...良かった。やっとひとつ思い出せた...」


ゆいぼんの表情は雪のように柔らかくて触れたらすぐ溶けそうなほどに儚かった。

そして...すごく嬉しそうだった。

ゆいぼんは記憶を失くしてからきっとずっと虚無感の中で生きてきたんだ。

全ての記憶を失くして不安で不安でたまらなくて、何でもいいから思い出したかったんだ。

それなのに俺は......

思い出してほしくないと思ってしまった。

ゆいぼんの記憶は悠永とのものだけじゃない。

ゆいぼんに関わる全てのモノ、こと、人の記憶だ。

ゆいぼんが10年という人生においては短いようで、だけど長くて大切な時間をレコードしてきたものなんだ。

その全てを失ったままなんてそんなの辛すぎる。

自分の足で歩いて道を作り、時々振り返りながらも前に進んで今日まで生きてきた。

そんな大切な時を忘れてリセットして生きるなんて出来ない。

俺は...間違っていたんだ。

失っていい記憶も、失っていいモノも、失っていい人も、何もないんだ。

ゆいぼんが大切だと思う全てがゆいぼんを作り上げているのだから。

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