二度目の初恋
「もう止めて!!」


飛び付いたものの、紀依ちゃんの方が大きく力もあるため、すぐに腕を離されそのままソファに投げ飛ばされた。


「なんであんたはいつまでもあたしに関わってくるんだよ?!そういうのがウザいってなんで分かんないんだよ!」

「分かんないよ!わたし、バカだから何にも分かんないんだよ!だから教えてよ。紀依ちゃんのことわたしに教えて......」


――バチンッ...!


頬が熱を帯びてくる。

じわじわと痛みが顔全体に広がっていく。

そして心には割れた皿の破片が刺さったみたいにチクリと痛くてそこから流血していた。

わたしは紀依ちゃんの瞳を見つめた。

恨み、憎しみ、妬み......。

そしてそれと同じくらい、いや、それ以上に悲しみが伝わってきた。

母に見てもらえなかった悲しみ。

母に側にいてほしい時にいてもらえなかった悲しみ。

母がまっ皿な気持ちで見てくれない悲しみ。

母に姉を独占された悲しみ。

姉が自分をきれいさっぱり忘れてしまっている悲しみ。

そんな悲しみが複雑に混ざり合ってこの瞳の色を作り上げている。

でもまだ濁りきっていない。

目薬のように一滴でも希望を垂らしてあげたら紀依ちゃんはこんな風に暴れなくなるはず。

わたしは紀依ちゃんにもう1度飛び付こうとしたけれど、紀依ちゃんは肩を大きく上下させ、荒い呼吸を繰り返していた。

心の中で善と悪が葛藤し、エネルギーを消費しているのだろう。

わたしは黙って紀依ちゃんの姿を見ていた。


「ウザイ...。ウザイ...ウザイウザイウザイ!皆ウザイ!もう、あんたたちの家族ごっこなんてうんざりなんだよ!」


紀依ちゃんはそう吐き捨てると2階にまた上がっていった。

その後ろ姿は負の感情で真っ黒になっていた。


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