二度目の初恋
そして退院の日から5日後に泰翔くんの誕生日になった。
泰翔くんはその日は塾があるらしく、わたしと怜奈ちゃんと会う時間がそんなに取れないということで、泰翔くんの学校の近くの喫茶店で30分だけ会うことにした。
わたしは予定より20分も早く着いてしまい、外にいると蒸し暑くて体調が悪くなりそうなので中で待つことにした。
一番奥の4人掛けの席に通してもらい冷房が当たりにくい位置に腰を下ろした。
今回のプレゼントの1つは店長さんに教えてもらったプリザーブドフラワー、もう1つはシャーペンにした。
これからも勉強が続くであろう泰翔くんにはシャーペンは何本あっても足りないくらいだろう。
一応書きやすさを試して滑らかな書き心地のものを選んだつもりだけれど気に入ってくれるかな...。
と、シャーペンに思いを馳せているとふとわたしの脳裏をあるものがよぎった。
鉛筆......。
わたしのお気に入りの鉛筆があったはず。
どんな色だっけ...。
柄はなんだったの。
鉛筆を書く以外の目的で何に使っていたの。
記憶が微かによみがえり始めたが、頭痛が襲ってきたためそれ以上は思い出せなかった。
冷や汗をハンカチで拭っていると、背後から声が聞こえてきた。
「ごめん、遅くなった」
「もぉ、泰翔出てくるのほんと遅いんだから」
「別に先にここに向かってくれても良かったのに」
「何言ってるのよ。わざわざ学校まで迎えに行ってあげたのにぃ!」
「俺は迎えに来てほしいなんて一言も言ってない」
「はぁ?!」
わたしはそのやりとりを聞いてくすっと笑った。
覚えていないけど、たぶんこんなやりとりが昔からあったのだと思う。
「ゆいぼん何笑ってるの?」
「2人、仲良しなんだなって」
「な、仲良しぃ?俺昔からこいつとは喧嘩ばっかだぜ」
「喧嘩するほど仲が良いって言うもんね~。アタシたち仲良しだね、泰翔」
「バーカ。1人で言ってろ」
なんだかこういうの、羨ましいな。
ザ幼なじみの会話って感じ。
わたしも2人と幼なじみのはずなのに、こんなやりとり出来ない。
離れていた時間が長くて消えた記憶が多すぎて、2人とわたしの間に生まれた溝を修復出来ないんだ。
この溝はきっともう埋められない。
だけど、少しずつ浅くすることは出来る。
わたしも2人となんでも言い合える関係に戻れるように頑張らないと。
「あれ?そういや注文まだ?」
「うん。2人のこと待ってた」
「俺はアイスコーヒーだけど2人は?」
「アタシもアイスで」
「わたしも同じで良いよ」
泰翔くんが手早く注文をし、わたしはその間にプレゼントをバッグから出した。
「泰翔くん、お誕生日おめでとう」
「おっ!ゆいぼんからの誕プレ楽しみにしてたんだよ~!サンキュ」
「気に入ってくれると良いんだけど...」
「ゆいぼんからのものなら何でも嬉しいって。家に帰ってから開けるわ」
「うん」
わたしは役目を1つ終え、内心ほっとした。
男の子にプレゼントなんて記憶にある限りしていなかったから実はかなり緊張していた。
さっきから汗でびっしょりの手のひらを必死にハンカチを握りしめて押さえていたのだ。
幸いわたしの隣にどちらも座らなかったからバレずに済んだ。
わたしが胸を撫で下ろしている横で怜奈ちゃんもガサゴソとスクバをあさり、プレゼントを右隣の泰翔くんにスライドした。
「誕生日おめでと」
「何だよその態度は。本当に心込めてるのか?」
「も、もちろん。今年は...特に」
怜奈ちゃんの頬を見るとほんのり桜色に染まっていた。
やっぱり怜奈ちゃんは泰翔くんのこと......。
「お待たせしました。アイスコーヒー3つです」
ちょうど注文していたアイスコーヒーが届き、怜奈ちゃんはすかさず手に取りストローで吸い上げた。
おそらく照れ隠しだろう。
怜奈ちゃんの恋する乙女な感じがすごく可愛いなと思った。
と同時にあの日公園で言われた言葉が鮮明に蘇る。
――俺はゆいぼんが好きだった。いや...今もまだ好き、だ
――これからはずっと一緒にいて俺がゆいぼんを守る。
――だから...俺からもう離れるな。側にいてくれ。俺...超寂しがりやなんだよ
泰翔くんはわたしのことが...好き、なんだよね。
はっきりとそう言われたのはあの1回だけだったけど、それじゃあわたしと怜奈ちゃんと泰翔くんって...。
「思い出した。小4の時の怜奈からの誕プレ、三角定規だったんだよ。確かに壊れて買わなきゃって言ってたけどさ、誕プレに三角定規送るやついるか?ほんと怜奈の感性はどうかしてるよ」
「悪かったわね、へんちくりんな脳で。こんな頭だから立黎も落ちたし」
「ま、目に見えてたけどな」
「ほんとひどいよ、泰翔。アタシのこと...」
怜奈ちゃんがまたアイスコーヒーを口にした。
ストローでちびちびと飲み進める。
「なんだよ。言いたいことあるならはっきり言え」
「言うことない」
「なら、俺そろそろ塾行かなきゃならないから帰るな」
超特急でアイスコーヒーを飲み干し、泰翔くんは席を立った。
「ゆいぼんも怜奈もありがとな。心優しい幼なじみを持てたことに感謝するよ。じゃあ、また」
泰翔くんはその日は塾があるらしく、わたしと怜奈ちゃんと会う時間がそんなに取れないということで、泰翔くんの学校の近くの喫茶店で30分だけ会うことにした。
わたしは予定より20分も早く着いてしまい、外にいると蒸し暑くて体調が悪くなりそうなので中で待つことにした。
一番奥の4人掛けの席に通してもらい冷房が当たりにくい位置に腰を下ろした。
今回のプレゼントの1つは店長さんに教えてもらったプリザーブドフラワー、もう1つはシャーペンにした。
これからも勉強が続くであろう泰翔くんにはシャーペンは何本あっても足りないくらいだろう。
一応書きやすさを試して滑らかな書き心地のものを選んだつもりだけれど気に入ってくれるかな...。
と、シャーペンに思いを馳せているとふとわたしの脳裏をあるものがよぎった。
鉛筆......。
わたしのお気に入りの鉛筆があったはず。
どんな色だっけ...。
柄はなんだったの。
鉛筆を書く以外の目的で何に使っていたの。
記憶が微かによみがえり始めたが、頭痛が襲ってきたためそれ以上は思い出せなかった。
冷や汗をハンカチで拭っていると、背後から声が聞こえてきた。
「ごめん、遅くなった」
「もぉ、泰翔出てくるのほんと遅いんだから」
「別に先にここに向かってくれても良かったのに」
「何言ってるのよ。わざわざ学校まで迎えに行ってあげたのにぃ!」
「俺は迎えに来てほしいなんて一言も言ってない」
「はぁ?!」
わたしはそのやりとりを聞いてくすっと笑った。
覚えていないけど、たぶんこんなやりとりが昔からあったのだと思う。
「ゆいぼん何笑ってるの?」
「2人、仲良しなんだなって」
「な、仲良しぃ?俺昔からこいつとは喧嘩ばっかだぜ」
「喧嘩するほど仲が良いって言うもんね~。アタシたち仲良しだね、泰翔」
「バーカ。1人で言ってろ」
なんだかこういうの、羨ましいな。
ザ幼なじみの会話って感じ。
わたしも2人と幼なじみのはずなのに、こんなやりとり出来ない。
離れていた時間が長くて消えた記憶が多すぎて、2人とわたしの間に生まれた溝を修復出来ないんだ。
この溝はきっともう埋められない。
だけど、少しずつ浅くすることは出来る。
わたしも2人となんでも言い合える関係に戻れるように頑張らないと。
「あれ?そういや注文まだ?」
「うん。2人のこと待ってた」
「俺はアイスコーヒーだけど2人は?」
「アタシもアイスで」
「わたしも同じで良いよ」
泰翔くんが手早く注文をし、わたしはその間にプレゼントをバッグから出した。
「泰翔くん、お誕生日おめでとう」
「おっ!ゆいぼんからの誕プレ楽しみにしてたんだよ~!サンキュ」
「気に入ってくれると良いんだけど...」
「ゆいぼんからのものなら何でも嬉しいって。家に帰ってから開けるわ」
「うん」
わたしは役目を1つ終え、内心ほっとした。
男の子にプレゼントなんて記憶にある限りしていなかったから実はかなり緊張していた。
さっきから汗でびっしょりの手のひらを必死にハンカチを握りしめて押さえていたのだ。
幸いわたしの隣にどちらも座らなかったからバレずに済んだ。
わたしが胸を撫で下ろしている横で怜奈ちゃんもガサゴソとスクバをあさり、プレゼントを右隣の泰翔くんにスライドした。
「誕生日おめでと」
「何だよその態度は。本当に心込めてるのか?」
「も、もちろん。今年は...特に」
怜奈ちゃんの頬を見るとほんのり桜色に染まっていた。
やっぱり怜奈ちゃんは泰翔くんのこと......。
「お待たせしました。アイスコーヒー3つです」
ちょうど注文していたアイスコーヒーが届き、怜奈ちゃんはすかさず手に取りストローで吸い上げた。
おそらく照れ隠しだろう。
怜奈ちゃんの恋する乙女な感じがすごく可愛いなと思った。
と同時にあの日公園で言われた言葉が鮮明に蘇る。
――俺はゆいぼんが好きだった。いや...今もまだ好き、だ
――これからはずっと一緒にいて俺がゆいぼんを守る。
――だから...俺からもう離れるな。側にいてくれ。俺...超寂しがりやなんだよ
泰翔くんはわたしのことが...好き、なんだよね。
はっきりとそう言われたのはあの1回だけだったけど、それじゃあわたしと怜奈ちゃんと泰翔くんって...。
「思い出した。小4の時の怜奈からの誕プレ、三角定規だったんだよ。確かに壊れて買わなきゃって言ってたけどさ、誕プレに三角定規送るやついるか?ほんと怜奈の感性はどうかしてるよ」
「悪かったわね、へんちくりんな脳で。こんな頭だから立黎も落ちたし」
「ま、目に見えてたけどな」
「ほんとひどいよ、泰翔。アタシのこと...」
怜奈ちゃんがまたアイスコーヒーを口にした。
ストローでちびちびと飲み進める。
「なんだよ。言いたいことあるならはっきり言え」
「言うことない」
「なら、俺そろそろ塾行かなきゃならないから帰るな」
超特急でアイスコーヒーを飲み干し、泰翔くんは席を立った。
「ゆいぼんも怜奈もありがとな。心優しい幼なじみを持てたことに感謝するよ。じゃあ、また」