二度目の初恋
「ももか!」


怜奈ちゃんが夜だと言うのに構わず叫んだ。

こちらに向かってきていた2人は足を止めてわたしと怜奈ちゃんを凝視した。


「久しぶり、高城怜奈ちゃん。今日はこんな遅くまでどうしたの?」

「アタシのことたかれなって呼んでたのに今じゃフルネーム?アタシそんなよそよそしくされることした?」

「質問に答えてくれないなんてそっちこそよそよそしいんじゃない?」

「2人共、一旦落ち着いて」


2人の間に火花が見えてわたしは咄嗟に間に入った。


「久しぶりに会ったのに、何よその態度!」

「たかれなちゃんは変わらず威勢が良くて元気で良いね」

「2人共止めよう。せっかく会えたんだし、また今度ゆっくり話そう。ね?」


わたしが怜奈ちゃんと伽耶ちゃんの顔色を伺い、ぎこちない笑顔を向けた。

すると、夜の薄暗さが起因のものとは異なる墨のような黒くて独特なオーラが放たれ始めた。

次第に周りを侵食し、わたしの足元に到達し、じわじわとせりあがって来た。


「そういうのが...そういうのがうざいんだよ...」

「紀依ちゃん...?」


――バシッ。


驚いたのはわたしだけじゃなく、怜奈ちゃんも伽耶ちゃんもだった。

紀依ちゃんがわたしの方にゆっくりと忍び寄り目の前で立ち止まったかと思うと、わたしの頬を思い切りビンタしたのだ。


「紀依...!」

「あんた、実の姉に何すんの!」


怜奈ちゃんが吠えるのとほぼ同時に紀依ちゃんがわたしに怒鳴った。


「あんたなんか姉でもなんでもない!あんたのせいであたしはずっとずっとずっと我慢してきた!あんたはニコニコニコニコ笑ってばっかで気味が悪いんだよ...吐き気がするんだよ!紀依ちゃんって呼び方もだいっきらいだ!...はあ...はあ...あんたやあのばばあの代わりにあたしに何でもしたくれたのは伽耶ちゃんだ。あたしの姉は伽耶ちゃんだ!もう2度とあたしの姉だなんて言うな!」


紀依ちゃんはそう言い残して去っていった。

玄関をバタンっと勢い良く閉め、父に何か言われているのが聞こえた。

母が酒に飲まれていなければ大変なことになっていただろう。

紀依ちゃんに土下座させていたかもしれない。

紀依ちゃんをぶっていたかもしれない。

紀依ちゃんに「あんたなんか娘じゃない」とか言っていたかもしれない。

そうならなかったんだから、良かったんだ。

わたしがぶたれるくらいで収まって良かったんだ。


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