二度目の初恋
伽耶は藍純悠永の幼なじみで、ずっとヤツのことが好きだ。

ゆいぼんと悠永が楽しそうに笑い合っているのを見ている伽耶の横顔は、見ているこっちまで切なくて胸が締め付けられるような悲しさの極みだったのを今でも忘れられない。

それは俺の心の真ん中にあるどろどろとしていて濁りきった感情と共鳴していた。

いや、今尚しているんだ。

だから俺には伽耶の考えていることもその感情から起こす行動も良くわかった。

伽耶はおそらくゆいぼんのポジションに自分が入ることでゆいぼんになりきろうとしたのだ。

ゆいぼんがいない間にゆいぼんが空けた穴を埋める。

その穴には自分の愛をたっぷり注ぐ。

そうすることで傷付いて弱った人の心を癒し、自分を必要だと思わせる。

自分がその人たちの一番の支えになってゆいぼんがいなくても自分さえいればいいと感じさせる。

感謝してもらい、自分が責められないような状況を作り上げる。

そのくらいのことは伽耶なら簡単にやってのけられるんだ。

その成果が顕著に現れていることは俺も良く知っている。

ゆいぼんや家族にバレないよう、夜10時過ぎにランニングしているふりをしてそっと偵察に来ると、伽耶とゆいぼんの妹が本当の姉妹のように仲睦まじく歩いて帰ってくるのを何度も目撃した。

そしてヤツに対しては、父親が亡くなり通信制高校に通いながらも大学を目指すヤツのために、塾からの配布物を図書室のコピー機で印刷しているらしい。

俺に気づかずというよりは、気付いていても無視しているみたいで話はしていないが、お互いの心を探り合い、絶妙なキョリを保って生活している。

似た者同士はお互いの感情が透けて見える。

わりと都合がいいようだ。

それはさておき、伽耶もゆいぼんに記憶が戻られては都合が悪いから記憶が戻るのを阻止したいという点で目的も望みも俺と一致している。

だから今後も俺はゆいぼんの真っ白な記憶のキャンバスに色を乗せ、心に空いた穴には愛を注いで俺がいないとダメになるくらいにゆいぼんを俺で満たしたいと思う。

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