二度目の初恋
「百瀬伽耶ちゃんだよ。ほら、俺よく言ってただろ?いつも週末になると料理作りに来てくれたり、紀依の勉強見てくれたりしてる優秀で優しい子がいるって。由依の同級生で仲良くしてくれてたんだってな。由依、隠れてないで出てこい。伽耶ちゃんずっと心配してたんだぞ」

「あら、それはどうも。なんか色々ありがとね。由依もちゃんとご挨拶しましょう。パパと紀依がお世話になったみたいだし、あなたのお友達なんだって」


わたしは母の影から身を出した。

少し顔を上げるとばっちりと目が合った。

漆黒なのに透明感のある瞳とまるで日本のお人形さんのようにきれいに切り揃えられた前髪が特徴的で可愛いというより美しい感じの女性だった。

わたしは驚き過ぎて言葉が出なかった。


「お久しぶりです。...じゃなくて、久しぶり、だね。久しぶり、ゆいぼん」

「ゆい...ぼん...?」

「そうそう、思い出したわ。怜奈ちゃんも家に来るとき由依のことゆいぼんって呼んでた」

「ああ、懐かしいな」


怜奈ちゃん...。

誰なの?

誰?

わたし、分からない。

わたし、思い出せない。

何も、

何も...

思い出せない。

頭が痛くなり、耳鳴りが始まった。

事故の後遺症でたまに起こる現象だ。

そんなわたしに構わず3人は楽しそうに話している。

その嬉しそうな声も、

その微笑みも、

わたしには凶器でしかない。

辛いよ...。

痛いよ...。

苦しいよ...。


「今日帰って来られたんですね」

「ええ、そうなの。由依は明後日から駅前にある通信制サポート校に通うことになって」

「そうだったんですか。ではこれからは家族全員でいられますね」


両親が顔を合わせて微笑む。


「すまんな、伽耶ちゃん。今日まで言えなくて」

「いえ、いいんです。紀依ちゃんにも聞いていなかったので少し驚きましたが...。では私はこれで失礼します」


百瀬さんが一礼をする。


「いつもありがとう」

「本当にありがと、伽耶ちゃん。これからもよろしくね」

「はい」


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