侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
「ああそうか。見てくれだけはいいからね、彼女。すっかりほだされたか。口づけくらいはしたってところか」
「コーディアは淑女だ。私は礼儀をわきまえている」
ライルは即座に言い添えた。
ライルとコーディアは婚約者という立場同士だが、その前に彼女の気持ちを確かめないまま自分の欲望をぶつけるつもりはなかった。
ライルは自身の腹の中に何かが溜まっていくのを感じていた。
「ふん。だったら好都合だ。人が先に手を付けたものはいらないからね。きみが紳士で安心したよ」
一方のローガンはライルのことを軽視する視線を寄越したまま。
彼はコーディアを半ば自分の物の様に語る。その声の調子が気に食わなくてライルの瞳が剣呑なものに変わっていくが横に座るローガンはライルの変化に気づかず饒舌に語る。
「あの娘、いい体つきをしていたね。きみが気に入ったというのなら、僕の後でということなら貸してあげてもいいよ。僕だってあんな女本気にするわけもない。一応妻にするんだから跡取りは産んでもらわないとだけど、そのあとだったらきみに貸してやるさ。好きに抱けばいいだろう」
ねっとりとした声だった。
ライルは思わずローガンの胸倉をつかんだ。
「コーディアを侮辱するのは俺が許さない」
頭の中が怒りで燃えていた。
彼女を一方的に貶めるような発言など、見過ごせるはずもない。こんな男にコーディアを渡せるものか。
「な、なにをするんだ」
突然強く掴まれたローガンは声をわずかに上擦らせた。それを悟られまいとして、彼はライルを振りほどこうと強くライルを押した。
がたんと音がして、ライルはカウンター席からよろけた。
大きな音と動作に他の客人が二人に注目を始める。
「彼女に謝れ」
ライルは一度離れてもローガンに再度詰め寄った。この男だけは許せなかった。コーディアを女として、彼の頭の中で何を想像したのか。
「なにを熱くなっているんだ。あんな女後時に。本気で惚れたのか?」
「だったら何だっていうんだ」
ライルは素直に認めた。
「はっ。デインズデール家のご子息様とは思えない発言だな。そうか、顔と体か」
「黙れ。コーディアを愚弄することは許さない」
「なんなんだよ、おまえは。たかだか一人の女ごときに熱くなって」
ローガンは掴みかかるライルに嫌気がさしたようだった。ローガンよりも背の高いライルに圧迫感を感じたのかもしれない。とにかく、彼はライルを振りほどこうとし、二人はもみ合った。その際ローガンはライルの頬を殴った。
「きゃあぁぁぁ」
気が付いたとき、近くにいた女性が悲鳴を上げていた。誰かの連れだろう女の声がやけに遠くに聞こえた。
ライルは最初どうして自分が床に尻をついているのか分からなかった。
一拍おいて頬がじんじん痛むのを感じた。口の中が塩辛い。もしかしたら血が出たのかもしれない。ライルは自分がローガンに殴られたのだと悟った。
「くそ……」
ライルは立ち上がった。
普段冷静沈着だと自他ともに認めているのに、今は頭に血が上っていた。コーディアを貶める発言をしたこの男が許せない。
ローガンを殴り返そうとしたライルを止めたのはナイジェルだった。
「おい、ライル。やめておけ!」
背後から羽交い絞めにされたライルは「離せ」とうめいた。
一方のローガンの側にもライルの友人が張り付き、「いくら酒の席とはいえこれ以上はやめておけ」とけん制する。
「ちっ。きみのおかげで一気に酒がまずくなった」
ローガンは面白くなさそうに一言言い捨ててクラブから去っていった。
「コーディアは淑女だ。私は礼儀をわきまえている」
ライルは即座に言い添えた。
ライルとコーディアは婚約者という立場同士だが、その前に彼女の気持ちを確かめないまま自分の欲望をぶつけるつもりはなかった。
ライルは自身の腹の中に何かが溜まっていくのを感じていた。
「ふん。だったら好都合だ。人が先に手を付けたものはいらないからね。きみが紳士で安心したよ」
一方のローガンはライルのことを軽視する視線を寄越したまま。
彼はコーディアを半ば自分の物の様に語る。その声の調子が気に食わなくてライルの瞳が剣呑なものに変わっていくが横に座るローガンはライルの変化に気づかず饒舌に語る。
「あの娘、いい体つきをしていたね。きみが気に入ったというのなら、僕の後でということなら貸してあげてもいいよ。僕だってあんな女本気にするわけもない。一応妻にするんだから跡取りは産んでもらわないとだけど、そのあとだったらきみに貸してやるさ。好きに抱けばいいだろう」
ねっとりとした声だった。
ライルは思わずローガンの胸倉をつかんだ。
「コーディアを侮辱するのは俺が許さない」
頭の中が怒りで燃えていた。
彼女を一方的に貶めるような発言など、見過ごせるはずもない。こんな男にコーディアを渡せるものか。
「な、なにをするんだ」
突然強く掴まれたローガンは声をわずかに上擦らせた。それを悟られまいとして、彼はライルを振りほどこうと強くライルを押した。
がたんと音がして、ライルはカウンター席からよろけた。
大きな音と動作に他の客人が二人に注目を始める。
「彼女に謝れ」
ライルは一度離れてもローガンに再度詰め寄った。この男だけは許せなかった。コーディアを女として、彼の頭の中で何を想像したのか。
「なにを熱くなっているんだ。あんな女後時に。本気で惚れたのか?」
「だったら何だっていうんだ」
ライルは素直に認めた。
「はっ。デインズデール家のご子息様とは思えない発言だな。そうか、顔と体か」
「黙れ。コーディアを愚弄することは許さない」
「なんなんだよ、おまえは。たかだか一人の女ごときに熱くなって」
ローガンは掴みかかるライルに嫌気がさしたようだった。ローガンよりも背の高いライルに圧迫感を感じたのかもしれない。とにかく、彼はライルを振りほどこうとし、二人はもみ合った。その際ローガンはライルの頬を殴った。
「きゃあぁぁぁ」
気が付いたとき、近くにいた女性が悲鳴を上げていた。誰かの連れだろう女の声がやけに遠くに聞こえた。
ライルは最初どうして自分が床に尻をついているのか分からなかった。
一拍おいて頬がじんじん痛むのを感じた。口の中が塩辛い。もしかしたら血が出たのかもしれない。ライルは自分がローガンに殴られたのだと悟った。
「くそ……」
ライルは立ち上がった。
普段冷静沈着だと自他ともに認めているのに、今は頭に血が上っていた。コーディアを貶める発言をしたこの男が許せない。
ローガンを殴り返そうとしたライルを止めたのはナイジェルだった。
「おい、ライル。やめておけ!」
背後から羽交い絞めにされたライルは「離せ」とうめいた。
一方のローガンの側にもライルの友人が張り付き、「いくら酒の席とはいえこれ以上はやめておけ」とけん制する。
「ちっ。きみのおかげで一気に酒がまずくなった」
ローガンは面白くなさそうに一言言い捨ててクラブから去っていった。