愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「目元、少し腫れてるな」
まだ鏡で自分の顔を見ていないけれど、確かに目元がちょっと重い。
たしかに、昨日あれだけ泣けば腫れちゃうよね……。
「ひどい顔、してますよね」
「あぁ、なかなか」
「え!?そんなにですか!?」
「嘘だよ。かわいい」
からかうように言われた、不意打ちの『かわいい』に胸がキュンと音を立てる。
もう、反則……!
ドキドキする胸を抑える私に、清貴さんは気づかぬ様子で体を起こした。
「さて、これからどうする?」
「え?」
「昨夜春生が寝たあと、あの男から旅館に電話が入ってな。『今日もう一度会って話がしたい』って」
あの男って……村瀬先生だ。
昨日の姿を思い出すと、落ち着いたはずの心がまた乱れる。
「春生に聞いてからまた連絡する、とだけ伝えたけど、どうする?」
清貴さんの問いに、私は一度黙る。
……会うのは怖い。
でも、そのままにしておくのもよくないってこともわかる。
それに、清貴さんのおかげで勇気も湧いたから。
私はその決意を表すように、彼の浴衣の袖をぎゅっと握る。
「一回しっかり話します。だから……ついてきてもらっても、いいですか?」
私の言葉に、清貴さんは私の手をぎゅっと握り頷く。
「もちろんだ」
その短い言葉に、また勇気が湧いてくる。
それから清貴さんに、村瀬先生へ連絡をとってもらい、すぐにでも会う約束をとりつけた。
午前中のうちに村瀬先生に会い、そのあと清貴さんはまた仕事に出るのだという。
忙しい中、申し訳ないな……。
そう思いながらも、だからこそ今日しっかり話を終わらせなければと決意した。
一度帰宅して服を着替え、メイクを直す私は、コンシーラーとアイシャドウで目元の腫れを隠し、しっかりとアイラインを引く。
逃げない、終わらせる。
何度も何度も心の中で繰り返して、家を出た。